第一章 グレンダン編
道化師は手の中で踊る
十年前の亡霊
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ミンス・ユートノールはグレンダン王家の武芸者として恐ろしいまで、ぬるま湯に浸かっていた。
もしも、彼が一度でも戦場に出ていたら天剣を求めなかっただろうと後世の人々は言う。
確かにミンスには才能がある。しかし、それは武ではなく文の方の才能だ。
恵まれた環境、武芸者でありながら戦場を知らない。誰よりも安全で、誰よりも良い暮らしをしていたミンスが、今回の暴挙に出たのは単純に教育失敗だったのだろう。
だからこそ、ミンス・ユートノールは歴代王家の人間の中で一番の愚か者として記憶されたのだろう。
錬金鋼を振り下ろす。
すると驚く程あっさり、血を撒き散らしながら腕が切れた。
実行したミンスは一瞬、不快そうな顔をしながらも飛んだ腕を細切りにして衝剄でコナゴナに砕いた。
しかし、腕を切られた……シキは起きない。
それを見たミンスは笑みを浮かべながら、自分の実力を誇る。
「なんだ、話に聞いていたほどじゃない」
この時点で武芸者の誇りを捨てているミンスは、自分がどれほど愚かな行為をしたかわかっていない。
それに、意識不明の人間が応戦してくるはずもない。もしも応戦してきたなら、ミンスなど三秒と持たないことは明白である。
真っ白な病室を赤く染め上げたミンスは、床に寝ているクラリーベルを見てため息を吐く。
「こんな場所で寝るなど……ティグ爺が見たらどう思われるのか」
ミンスはクラリーベルを侮蔑するが、気絶させられていることに気づくことはなかった。
ミンスは未だ腕から出血しているシキを見ながら、ゴミを見るような目でその腹部に錬金鋼を刺した。
肉を引き裂く音と、血が噴き出す音がミンスの耳に入るが対して気にしていない。
さらにここが病院であることにも頓着していない様子であった。人に見つかったらもれなく警察を呼ばれるような状況だが、警察が呼ばれることがないことをミンスは知っている。
汚染獣襲撃の際には、医療関係の人は真っ先にシェルターの医療設備に向かう。例外として、動かせない病人がいる場合は武芸者の護衛をしながら看護することになる。
シキはその例外であった。しかし、その看護婦の姿はおろか医師の姿も見えない。
なぜならミンスが人払いをしたからだ。
クラリーベルがいた事は情報で知っていたが、自分なら勝てると疑っていない。むしろ、クラリーベルとの戦闘中、『誤って』シキに攻撃に当たる方がいいと思っていたくらいだ。
それほど、ミンスはシキの生死に関してはいい加減であった。
そうでなければ、血で汚れるという理由で錬金鋼を刺しながら運ぼうなんて考えには至らないだろう。
ミンスは窓に足を乗せて、そのまま飛んだ。
腐っても武芸者というのだろうか、ミンスは片腕でシキを持っても問題なく跳べた。だが、シキの体
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