第百二十六話 溝その十二
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「傍によからぬ者達がいまして」
「佞臣ですか」
「そう言っていいでしょう」
よくある話だった、戦国の世でも。
「近頃公方様の周りにいる様です。それでそれがし達や心ある侍女達も」
「明智殿もですか」
「はい、最早お諌めすることも出来ません」
それも無理になってきているというのだ。諫言も必要なことであるのだがそれが出来なくなってしまっているというのだ。
そのうえでだった、明智が言うには。
「時に気にることがありまして」
「と、いいますと」
「南禅寺の住職の」
「あの御仁ですか」
「はい以心崇伝殿です」
明智もまたこの者の名を出した。
「あの御仁です」
「南禅寺は名札ですが」
「その名札にしては」
「ですな。近頃妙に不気味なものがあります」
「それがしも勘十郎様からお聞きしています」
明智は信行と親しくしている、彼にとって信行はもう主筋であり都のことで何かと話をしているのだ。それでなのだ。
「崇伝殿には気をつけよと」
「ですな。あの御仁が公方様に近付いているとなると」
「しかもです」
まだいた、明智は暗い顔のまま話す。
「もう一人います」
「誰ですか、それは」
「東国から流れて来た様ですが」
「東国ですか」
「武蔵の生まれだとか」
明智にしては珍しいことだった、首を傾げさせたのだ。
そのうえで出す名前とは。
「南光坊天海といいます」
「?誰でござるかそれは」
「それがしもよく知りませぬ」
やはり首を捻っての言葉だった。
「どういった御仁なのか」
「名前から察するに僧侶でありますな」
「はい、そうです」
僧侶であることはわかっているというのだ、そのことは。
「それは間違いないのですが」
「わかっているのは名前だけで」
「一切が謎に包まれた者です、それでいて恐ろしい教養を持っています」
このことも話される。
「古今東西のことに精通し齢は」
「それは幾つ位でしょうか」
「かなりの高齢であることは間違いないのですが」
「というと八十程でしょうか」
「いや、百を超えているそうです」
「何と、百をですか」
これには山内も驚いた、それが声にも出ている。
「朝倉宗滴殿で八十を超えていますが」
「それよりもさらにですか」
「その様です」
「百歳とは」
山内はその年齢に驚いたままだった、そして。
その驚いた顔であらためて明智に問うた。
「それはまことでありますか」
「どうやら」
明智はその根拠も話す。
「天海殿の供の者が皆言っていますし武蔵から来た北条の者の話でも」
「百歳を超えていると」
「そう言っていました」
そうだというのだ。
「ですからこのことはです」
「間違いないと」
「そうです」
「ふむ。しかしかなりの教養
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