第百二十六話 溝その十
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都に入るとすぐにだった、彼はよくないものを見たのだった。
幕府の侍達、まだ僅かに残っている彼等が街を見回り町人達にあれやこれやと注意していた、本来は何でもないものだ。
だが今の都のことを考えるとだった。
「都は勘十郎様がお預かりしているが」
「はい、都の仕置の一切はです」
「その取りまとめも」
供の者達も威張り散らす幕府の侍達を見て驚きを隠せない。
「ですが何故幕府の侍が仕切るのか」
「意味がわかりません」
「全くじゃ」
山内は目を丸くさせて言う、そしてだった。
馬上から供の者達にまた言ったのである。
「ここはじゃ」
「あの者達を止めますか」
「そうされますか」
「ただの取り締まりならまだよい」
織田家の管轄に触れるがそこに理があるならばというのだ。だが今山内の前で幕臣達が為していることはというと。
「しかしあれは無頼じゃ」
「はい、無頼の行いですな」
「まさに」
見ればそうだった、商人から金をせびり取り年寄りを脅し娘の手を掴もうとしている、それでは最早だった。
山内は馬の手綱を握って言った。
「放ってはおけぬわ」
「では取り締まるのはですか」
「あの者達ですな」
「勝手に仕切ってやりたい放題する者もおる」
丁度今彼の目の前にいる。
「そうした者を放ってはおかぬ」
「だからですな」
「ここは」
「行くぞ、ではな」
山内は自ら先に馬を進めそうしてだった。
その幕府の者達の前に来てこう言った。
「待て、御主達何をしておる」
「決まっておろう、町の取り締まりよ」
「この都のな」
男達は山内に対して平然と嘯く。
「悪者達から都を守っておるのじゃ」
「そして公方様もな」
「そうは見えぬな」
山内は彼等に強い目で返した、場上から見下ろしている。
「到底な」
「では何に見えるのじゃ」
「それでは」
「取り締まりを理由にやりたい放題をしているのであろう」
ありのままに見ての言葉だった。
「そうじゃな」
「何を根拠に言うか」
「金をせびり取り絡み娘の手を掴む」
今も娘の手を掴んでいる、山内の供の者達が娘と男達の間に入った。
「さあ、離せ」
「娘も嫌がっておるではないか」
男達を強い目で睨みつつ言う。そして山内も男達に言う。
「娘を自由にするのじゃ」
「こいつはわし等が取り締まるわ」
「すりじゃからな」
「すりがその様な動きにくい袖の筈がないわ」
見れば娘の袖はかなり広くそして何かをかなり入れている様である、山内はそれを見て言うのだ。
「すりなら手を素早く動かさねばならぬからな。だからじゃ」
「手を離せというのか」
「御主は」
「そうじゃ、離せ」
まさにその通りだった。
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