-序章-
「おい、お前…」
低く優しい頭に響くその声に、私は俯いてた顔をゆっくりとあげた。
「…っ。」
目の前に映ったのは、桜の花びらを纏わせながら佇む美しい男の人だった。
そう認識した刹那、サーッと強い風が吹いた。
私は思わず目を閉じてしまう。
風はほんの一瞬で止み、閉じていた目を開けたそこには…
桜が舞い散る中に、美しい彼の姿はなかった。
その時、私の中では確実に、運命の歯車が動き出す音が聞こえた。
耳に響く目覚ましの音を消し、だるい体を起こして支度をする。
学校にいても常にいじめの対象。
この容姿は私にとって被害をもたらすものでしかない。
「どうして私だけが…。」
この容姿は両親譲りなんかじゃない。
両親は普通の日本人で、容姿も普通の日本人。
なのに生まれてきた私は、銀髪に赤い目、ただの異形のような容姿でしかなかった。
近所の人からの蔑む目・・・、それから逃げたくて両親は姿を消した。
もちろん、私1人をおいて…。
学校に間に合うぎりぎりの時間に家を出て街を歩く。
私に向けられる視線は全て蔑む視線。
「なんなのあの子、気味が悪い。」
そんな声が多々と聞こえてくる。
私は逃げ場のない吐き気を必死に抑えながら学校に向かうことしかできなかった。
授業開始の鐘がなる。
それと同時に私は教室に入り、席につく。
かばんをわきにかければ、すぐに先生がやってくる。
1限目は国語現代文。
「教科書42ページ、6行目から。よし如月、読め。」
重い気持ちを抑えながら教科書を開いたとき、私を街を歩いている時よりも激しい吐き気が襲った。
教科書を見たまま何も口に出すことができず、黙るしかできなかった。
「おい、どうした如月。早く読め。」
全ての音が遠くなっていく。
私は気づけば荷物を持って走りだし、教室を後にしていた。
「如月!?どこいくんだ!」
先生の驚きと怒りを含んだ声が聞こえる。
しかし足は止まることなく、家に向かっていく。
「はぁはぁ…。」
元々体力もなく食事をろくにとらない身にはつら過ぎる行動だった。
学校を出た時点で息は切れて、街に行く頃には完全に歩いている形だった。
やっとの思いで家についた私は、すぐさま入り鍵を閉めてベットに横になった。
「ん…。」
ふと目が覚め、枕もとの時計に目を向ければ既に22時をまわっていた。
気だるさをおさえながら教室で見た教科書を手に取り開く。
そこにはやはり、びっしりと落書きがあった。
きもい、死ね、消えろ、妖怪
そんな言葉が目の前に飛び込んでくる。
私はいてもたってもいられなくなり、家を飛び出して公園に向かう。
そうそれが、私と彼との出会いの夜。
運命の歯車が回りだした、そんな夜。
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