第二章 別れ
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が、そんな短い時間でさえ、大学の先輩である有名な演劇評論家の名前を出し、対等に酒を飲み演劇論を戦わせているなどと自慢するような男なのだ。
しかし、学生時代、阿刀田の芝居を洋子と何度か見に行った。二人して楽屋に花を届けたこともあったのだ。同窓会の招待状は洋子と過ごした青春の思い出を呼び覚ました。いつの間にか懐かしさが心を満たしていた。そして呟いた。
「洋子はどうしているのだろう?阿刀田さん主催の会に来るなんてこと…ないか…」
あの自殺騒ぎや慰謝料問題の修羅場が遠い日の出来事となり、時間というフィルターを通して懐かしさだけが抽出されていた。自分のために命を投げ出そうとした健気な女のイメージだけが膨らんでゆく。思わず欠席の文字を消していた。
会場は中野サンプラザの小ホールで、50人ほどの先輩後輩達がグラス片手に談笑している。懐かしい顔を見出し近付こうとした矢先、阿刀田が目ざとく中条を見つけ、人を掻き分け寄ってきた。
「おい、久しぶりだな、新宿でばったり会って以来だろう。あの時は、確か子供が生まれ
るとか何とか言っていたと思ったが」
どうやら誰かと勘違いしているようだ。るり子を紹介しろとしつこく迫ったことなど、すっかり忘れているようだ。苦笑いしながら答えた。
「お久しぶりです。先輩、それ、誰かと間違えていません?確か先輩と会ったのは女房と結婚する前ですから、子供なんて生まれてなんかいませんよ。まあ、それはそうと、お元気そうじゃないですか。相変わらず派手にやってるんですか?」
「ああ、相変わらずだ。そうそう君にも紹介しておこう」
こう言うと、阿刀田は中条に覆い被さるように肩を組み中央へ進んでゆく。そこには白髪の老人が数人の紳士達に囲まれ談笑している。阿刀田はそこに強引に割って入った。その強引さは、ゆとりを失った人間の焦りに誘発されている、そう感じた。
恰幅のよい白髪の老紳士が迷惑げに顔を歪めた。阿刀田はかまわず口を開く。
「飯田先生、紹介いたします。こちらは東都大学演劇部55年卒の中条翔君です。飯田先生と同じように彼の御母堂は我が演劇部に多大な貢献をなさった方です。中条君、この方は我々の大先輩で演劇評論家の飯田久先生だ」
中条が挨拶すると、飯田先生はにこりと微笑んで挨拶を返した。そして先ほどからの相手と話しの続きに入っていった。中条はその場を離れたが、阿刀田はその輪の中に入ろうと必死で耳を傾けている。その額に玉の汗を浮かべているのが見えた。
その時、中条の背後から、男が耳打ちした。
「奴も必死だ。奴が立ち上げた劇団が潰れかけている。もう、お前は寄付の話しを持ちかけられたのか」
驚いて振り返ると忘れられない顔がそこにあった。学生時代の悪友、桜庭がそこに佇んでいた。目顔で挨拶し、なるほどと言った表情で何度も頷いた。
「いや、ま
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