第二章 別れ
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るんて、不思議な縁ですね」
「全くです。僕も驚きました。それで、あの、その後……」
るり子がにこりとして言った。
「あれ以来、すっかり男性不信に陥って独身を通してます。一年半も」
ぷっと吹き出し、中条を見上げた笑顔が可愛いらしかった。中条も釣られて笑った。
二人の会話はノックの音に遮られ、るり子はそそくさと出ていったが、ドアを閉める時、
中条にちらりと笑みを見せた。
商談が済んで、総務のカウンター越しにるり子を探したが見当たらない。見送ろうとする担当者と歩きながら後ろ髪引かれる思いでエレベーターに乗り込んだ。しかし、このまま会社に戻る気にはならなかった。中条は決意を固めた。
1階に着くと早速受付嬢に総務の山下るり子との面会を申し入れた。受付嬢の声が響く。
「お客様が下にお見えですが、11階にお通しして宜しいですか。えっ、ロビーでお待ち頂くのですね、はい、はい、分かりました」
受付嬢は受話器を置いた。
「山下はロビーに下りてくるそうです。そちらでお掛けになってお待ち下さい」
しばらくして5基あるエレベータのうち一基が11階で止った。そしてゆっくりと降りてくる。彼女が乗っているに違いない。もし、一度も止らなければ、自分たちは結ばれる。
そう思った。そして、エレベーターは一気にロビーまで降りてきた。ドアが開かれ、微笑むるり子がそこにいた。
こうして二人は交際するようになり、半年後には結婚した。そして一年後には勝が生まれ、二年後には孫に見送られ母が逝った。小さなマンションから親子三人には広すぎる家に引っ越してきたのはそれから間もなくのことだ。
幸せに暮らしていた。広い敷地に瀟洒な家、美人妻に可愛い子供。休日には日がな一日芝生で勝と戯れ、疲れると木陰で昼寝をした。二人目が出来ないのが唯一の不満といえば
不満だったが、それは勝が物心ついてからでも遅くはないと思っていた。
そんな幸せな日々が壊れてゆくなど思いもしなかった。子供の成長を見守り、家庭から巣立つのを助け、そして夫婦して老いてゆく。そんな人生を送るものと漠然と考えていた。ゆっくりと時間は流れ、勝は5歳になろうとしていた。
その頃、大学時代の演劇部の同窓会通知が舞い込んだ。主催者は一年先輩の阿刀田だった。彼は唯一人初心を貫徹し、演劇で飯を食っている男だ。中条のように最初から日和って一般企業に勤めた人間を心のどこかで軽蔑しているようなところがある。
中条は行く気はなかった。どうせ阿刀田の独壇場になることは分かっていた。何年か前、偶然、阿刀田と新宿ですれ違ったことがあった。るり子と見合いし、新宿御苑へ向かう途中だった。阿刀田は、るり子にねっとりとした視線を送って、「ちょっと紹介しろよ」と下卑た口調で言ったものだ。
中条は適当にあしらって、その場をやりすごした
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