第一章 出合
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まなかった。呼び出されて文句言われたけど何ともなかった。ほっぺたをひっぱたかれたけど、二倍にして返したわ。でも、……、思い出しただけで身震いしちゃう」
「いったい彼女は君に何をしたというんだ」
それには答えず、舞は話し続ける。
「あの時、そう、頬を叩き返した時のことよ。彼女の顔が凄かったの。あれほど憎しみに満ちた顔を私は見たことないわ。口から血を流して、その血をぺろりと舐めた。そして私を睨みつけていたの。怖くて体が震えたわ」
中条はそのあまりに大げさな言葉と表情に苦笑いを浮かべた。すると、舞が血相を変えて叫んだ。
「本当なの、本当なんだから、信じて。私はこの世が一瞬にして地獄に変わっちゃったんじゃないかと思ったくらいよ。本当なの、ねえ、信じて」
声は震え、その目には涙を湛えている。心底怯えているのだ。ふと、老人の言葉が脳裏をかすめ、冷たい振動が中条の背筋を駆け抜けた。中条が重い口を開いた。
「いったい、彼女は君に何をしたんだ」
「それが、とんでもないことよ。あそこまでやる人だとは思いもしなかった」
ここで一呼吸間をあけて、話し出そうとした正にその時、舞の目は一瞬にして凍り付いた。大きく見開かれた瞳は一点を凝視している。中条は振り返った。そこにはお茶目な笑みを浮かべ、手を小刻みに振っている洋子がいた。
ガタッという音に続き、グラスが倒れコーヒーがテーブルにこぼれた。舞が我を忘れて立ち上がった拍子に、テーブルにぶつかったのだ。舞はそのまま駆け出していた。洋子を避け、入り口を目指した。何度か躓いて倒れそうになったが漸く店を出て行った。
洋子は口を押さえて笑っている。ウエイターがテーブルを整え、何事もなかったように立ち去った。洋子が席に近付いてくる。洋子は二人がこの喫茶店にいることをどうして知っていたのか、まさか舞をつけていた?中条の心に暗い疑念が浮かぶ。
洋子が席に着いた。にこにこといつもの可愛い笑みを浮かべている。ぞくぞくという恐怖が中条の背筋を登ってゆく。舞に取り憑いていた恐怖のウイルスが中条に感染したのか
?あの老人の言葉が脳裏に蘇った。『洋子は性悪な女なんだ』
「何故この喫茶店が分かったんだ?」
「簡単よ、野田さん、貴方の隣の同僚。この間、一緒に飲んだじゃない。その野田さんが、貴方の言葉を覚えていたの。『えっ、交通会館の5階、そんな所に喫茶店なんてあったっけ』これ貴方が言った言葉よ。だからここに来たの。そしたら彼女がいるじゃない。驚いちゃった」
なるほど、納得がいく。確かに、舞の電話にそう答えて切ったのだ。
「彼女は君を怖がっていたが、君は彼女に何かしたのか」
洋子は見る見る表情を曇らせ、終いには目に涙を滲ませた。今にも泣きそうな顔を俯かせ、ぽつりぽつり話し始めた。
「冗談じゃないわ。何かしたのは彼
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