暁 〜小説投稿サイト〜
悪役だけれど
第三章

[8]前話 [2]次話
 そして演技力もある、当代きっての悪役歌手と言っていい。
 だがその彼の人格はまさに聖者だ、それで言うのだ。
「あんないい人が悪役得意なんですね」
「ははは、世の中はそうしたものだろ」
 ここで年配の記者が彼に笑ってこう言った。
「そうだろ」
「そうなんですか?」
「ハリウッドの映画スターが麻薬をやったりするだろ」
「ええ、まあ」
「気難しかったり女性問題起こしたりな」
「ありますね、確かに」
 そうした話はしょっちゅうだ、正義のヒーローが実は、というのは。
「それじゃあそれも」
「ああ、逆になっただけだよ」
 ヒーローが実はそうした人間であるケースと、だというのだ。
「それだけだよ」
「舞台では悪役でもですね」
「実はいい人ってこともあるんだよ」
「そういうことですか」
「だからそんなに不思議なことじゃないさ」
 記者はジャーナリストに言う。
「そうしたことも」
「ですか」
「あの人また寄付をしたな」
「今度は病院にでしたね」
「それでまた人が救われる」
 彼のその寄付によってだというのだ。
「いいことだな」
「はい、本当に」
「悪役が人を救うんだ、それこそ舞台ではマフィアのドンみたいな人がな」
 そうした悪役スターがだと、記者は笑顔で語る。
「面白いだろ、考えてみると」
「ですね、ギャップといいますか」
「少なくとも実際のマルツィターノさんは悪人じゃない」
 むしろ聖者だ、これ以上はないまでの。
「舞台と実際は違うということもわかってな」
「そのうえで、ですね」
「一緒にいればいいんだ」
「そういうことですか」
 ジャーナリストも記者の言葉に納得した、舞台では悪役でも実際は違うというのだ。それで。
 舞台でイヤーゴを見事なまでに、それこそ悪の権化として演じきった彼を迎えてだ、まだ舞台衣装を着ている彼にこう言った。何度かのカーテンコールの後で控え室に向かう途中の廊下で声をかけたのである。
[8]前話 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ