第一章
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赤い鳥逃げた
青い鳥は幸せの鳥、それなら赤い鳥は何か。
彼は私にこのことを言ってきた。
「夢じゃないか?」
「夢?」
「何となく思うことだけれどな」
こう私に言う。私が飼っているその赤い、籠の中の鳥を見ながら。
「それじゃないのか?」
「夢の鳥なの」
「青い鳥がいてくれれば幸せになれて」
「それで赤い鳥がいれば」
「夢が手に入れられるんじゃないか?」
彼は今も赤い鳥を見ている。
「そう思うけれどどうだろうな」
「どうかしら。じゃあ私は今赤い鳥を飼ってるから」
私もその赤い鳥を見た、そのうえで彼に返した。
「夢を持っているのかしら」
「そうじゃないのか?」
「私の夢、ね」
「ずっとピアニストになりたかったんだよな」
「ええ」
それは子供の頃からの夢だった。そして今私はその仕事に就いている。
大学の講師をしながらピアニストを務めている、そうした意味で私は確かに夢を適えることができている、彼が言うのはこのことだった。
「なれているわ」
「だからそう思うけれどな」
「そうなのね。赤い鳥は夢なのね」
「俺はそう思うさ。それに」
「それに?」
「俺も夢を適えたいんだ」
彼は私に強い声で言ってきた。
「絶対にな」
「あなたの夢ね」
「ああ、世界に出てな」
彼は遠くを見て私に言ってくる。
「それで世界的な指揮者になるんだ」
「ずっと言ってることね」
彼の仕事は指揮者だ。ずっとフルトヴェングラーの様な指揮者になりたいと言っている、それで世界に出たいといつも言っている。
「あなたは世界を目指したいって」
「ああ、それが俺の夢なんだよ」
彼の目には夢があった。そのうえでの言葉だった。
「なってやるさ、フルトヴェングラーみたいにな」
「そうなのね」
「応援してくれるよな」
「ええ。ただね」
「ただ。どうしたんだ?」
「夢は一つだけとは限らないわよね」
私はその彼を見ながら言った。
「そうよね」
「それはな。夢は幾つあってもいいからな」
「そうね。私はピアニストになって」
彼を見ながら言っていく。
「それでずっと」
「ずっと?」
「いえ、いいわ」
言いたかったけれど言えなかった。彼自身には。
それで言葉を引っ込めてこう言った。
「何でもないわ」
「そうなんだな」
「ええ、日本を出てよね」
「世界に出るからな」
彼はそれは当然だと答えてきた。
「日本は出るさ」
「この東京も」
「いい町だけれどな」
彼はここでは少し寂しさを見せた。けれど。
決意は変わらなかった。やはりこう言う。
「それでも出るさ」
「他の国で住むのね」
「そうなったらな。絶対に世界的な指揮者になってみせるから」
「そう」
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