第八章 望郷の小夜曲
第五話 燃える心
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る直前、黙り込んでいたアンリエッタが口を開いた。
「先の戦で、何故ロサイスから連合軍が無事逃げることが出来たのか知っていますか」
「……何らかの理由で、アルビオン軍の進行が遅れたと聞いています……が、噂では、たった一人の男がアルビオン軍を打ち破ったと……いえ、すみません戯言を口にしてしまいました。一人で七万の軍を敗走に追い込むことなど出来るは―――」
「その噂こそ真実だと言ったら」
「え?」
「そして、その男がルイズの使い魔であるエミヤシロウだと言ったら?」
「まさか」
顔を上げ左右に振るうアニエスに、アンリエッタがふっと小さく息を吐くような笑みを作る。
「彼は文字通りの『英雄』です。アルビオンのホーキンス将軍に聞きました。彼が七万の軍を打ち破り、総司令官である自分の右腕を切り飛ばしたと」
「ま、まさか。そんなことが人間に……」
「シロウさんはトリステインに戻ってはきてはいませんが、生きている可能性があります。彼によってトリステインは救われました。どれだけの御恩があるか……アルビオン軍と彼が交戦したのは、ロサイスから北東の地点です。どんな手を使ってでも彼を見つけ出してください」
「……承りました」
疑問や否定の言葉を飲み込み立ち上がったアニエスは、最後にアンリエッタの背中に頭を下げると、部屋を出ようとしたが、
「アニエス」
「何でしょうか?」
名前を呼ばれドアに向かう足を止められた。
振り向くと、その先にはあいも変わらず窓の向こうを眺め続けるアンリエッタの背中が。
「復讐には、何か意味があるのでしょうか」
「……復讐の意味ですか」
アニエスの顔が苦しげに歪む。
何の前振りもなく告げられた言葉に、アニエスは動揺するように心臓が一瞬大きく鼓動したが、ゆっくりと大きく息を吸うことでそれを治めると、アンリエッタが見つめる先の窓の向こう側に視線を向けた。
静まり返る部屋の中、アニエスの声が響く。
「……殺された者の恨みを晴らすため、自分が前に進むため……そう考えていましたが」
「今は違う?」
「……少し……分からなくなりました……わたしも今……復讐について……考えているところです」
段々と小さくなっていく声に、アンリエッタは身体を微動だに動かすことなく返事を返した。
「……すみません。おかしなことを聞いてしまいまして。もう……いいです」
「……は」
背後でドアが閉まる音を聞いたアンリエッタは、窓の向こうに投げかけていた視線を手元の赤いワインに落とした。注いだはいいが、先程から一度も口をつけていないそれを見下ろしながら、静かに目を瞑る。
瞼の裏。闇に沈む視界の中の奥に、何かの影が見えた。それは段々
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