第八章 望郷の小夜曲
第五話 燃える心
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のような決められたノック数。
それで自分が来たことを中にいる主に知らせると、中から入室の許可が下りる。
「……どうぞ」
「ん? ……失礼します」
中から聞こえた声に、アニエスは訝しげな顔をする。声の主は自分の知る主、アンリエッタのものに間違いはない。しかし、最近耳に慣れるようになったあの氷のような声ではなく、以前の優しいこちらを気遣う様子が伺える声であった。
だが、それでも入らないことはありえず。ドアを開け中に入ると、そこには窓辺に置かれた椅子に座り、血のように赤いワインに満たされたグラスを膝に抱えるように両手で持ち、夜空に瞬く星を見上げるアニエスの主の姿があった。
「陛下。わたしに何か話があると聞きましたが」
「…………」
無言で窓の向こうを見上げるアンリエッタに、アニエスが眉を寄せる。
「……トリステイン軍の一部の反乱は、シティオブサウスゴーダの水が原因かと調べましたが、調査したメイジが言うには異常は見当たらないとのことでした。『先住魔法』の可能性がありますが、調べる方法がなく」
元々アニエスがアルビオンに来たのはアンリエッタの護衛ではなく、連合軍の兵士がシティオブサウスゴーダで突然反乱を起こしたことの真相を解明するためであった。反乱を起こした連合軍の兵士たちは、ガリアによりアルビオン軍が壊滅した後、それぞれの国に引き渡された。引き渡された後、各国で事情聴取が行われたが、反乱の理由については全員が『そうしなければいけない気がした』等と申し立てたことから、何らかの魔法による洗脳ではないかと推測された。しかし、その魔法が一体何なのかは全く不明であった。これが最後と判断することが出来る筈はなく、そのためアンリエッタからアニエスは反乱の原因についての調査を命じられていたのだった。
「未だその理由が不明のまま、陛下の前に来たこと、申し開きの言葉も―――」
「アニエス」
「はっ」
「構いません。それよりもあなたにお願いしたいことがあります」
顔を向けることなく、アンリエッタはアニエスに背中を向けたまま話を続ける。
その様子にアニエスは眉を顰める。
明らかに違う。
最近の氷で出来た人形のような姿ではなく。以前の何処か自信がなさげであるが優しい姿でもない。
一体どうしたのだ?
明らかに様子が変だ。
だが、最近の考えが分からない姿よりはまし―――か。
「エミヤシロウは知っていますね」
「はい。ミス・ヴァリエールの使い魔の男ですね」
「そうです。あなたにその彼を探してもらいたいのです」
「理由を聞いても?」
背中を向け椅子に座るアンリエッタに、跪いた姿で尋ねるアニエス。暫くの間、部屋の中が静まり返る。無言の時が続き、アニエスが先の言葉を撤回しようとす
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