暁 〜小説投稿サイト〜
剣の丘に花は咲く 
第八章 望郷の小夜曲
第五話 燃える心
[6/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
し、もしや終戦のゴタゴタで下に降りる方法が分からないのかも知れませんな」
「シロウさんが……シロウさんが生きて……生きてる」













 





 誰もいなくなったホワイトホールで、残されたホーキンスは一人円卓に設けられた席に座り込んでいた。
 頭に浮かぶのは、ついに最後まで振り返ることなく部屋から出て行った女性。若くして王座に着いたアンリエッタであった。初めて見た時、その美しさより身に纏う雰囲気に息を飲み、感情が凍りついた瞳を見て背筋を震わせた。戦場を駆け抜け、様々な惨事を目にしたことがあるホーキンスにとって感情が凍りついた、摩耗した人間を見るのは初めてではない。しかし、感情が感じられない瞳の中、虫を観察されるような視線を向けられるのは初めてであり。実験動物を腑分けするようにアルビオンを切り裂こうとする姿には、吐き気すらもよおした程だ。だからこそ、若いと侮ることなく、覚悟を持って挑んだ。しかし、それでも甘かった。民の窮状を伝え、温情をもらおうとしたが、視線すら向けられず、与えられたのは冷酷なまでな言葉。追い詰められ、博打を打つつもりで放った言葉は、そんな怪物のような女をただの女……それも小さな少女に変えた。

「……シロウか」

 それは英雄の名。
 たった一騎で七万の軍勢を打ち破りし、幻想の彼方に消えた筈の本物の『英雄』。
 ホーキンスは英雄の名前を口にし、切り飛ばされた右腕の肩口を撫でた。言葉通りの目にも止まらない疾さで振るわれた剣は、恐ろしさより憧れさえ抱かせた。
 七万の軍勢を打ち破り。
 恐ろしい氷の女王を、ただの少女に変える。
 絵本の中から出て来たかのような『英雄』は、一体何者なのか。

「また……会いたいものだ」

 目を細め、何時の間にか浮かんだ微笑みを口元に湛えたホーキンスの口から溜め息混じりの声が漏れた。























 ハヴィランド宮殿に設けられた客間の一室の前。
 一目見てその豪華さが分かるドアの前に立つ者は、帯剣をしていなければただの平民にしか見えない簡素な服装をしたアニエスであった。
 ノックをするではなく、ドアの前に立ち尽くしている。
 脳裏に過ぎるのは、心も身体も氷で作られたような姿になった主のこと。時折見せてくれた笑顔は、ある日を境に欠片も見せることなく。それどろこか、人が変わったかのように、国の利益となるならばどれだけ残酷な命令さえ眉一つ動かさず下すようになった。その姿に、人間性さえ感じられなくなりつつある。
 小さく覚悟を決めるように一つ溜め息を吐くと、アニエスは重い腕を持ち上げドアをノックする。
 大きく三回。続けて小さく二回。
 暗号
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ