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剣の丘に花は咲く 
第八章 望郷の小夜曲
第五話 燃える心
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族であります。誠に勝手な話でありますが、これ以上民を痛めつけること等したくはありません。ですので陛下。我らはどうなっても構いません。例えアルビオンの貴族全員を処刑したとしても、何卒民には寛大なご処置をお願いいたします」
「確かにこの戦を引き起こしたのは民ではなく貴族であり、民に戦の責任をとって貰おうなど考えてもいません」
「おお、ありがとうござい―――」
「―――ただ」

 自身の言葉を受け入れるようなアンリエッタの発言に、ホーキンスは弾んだ声で、喜色が浮かぶ顔を上げようとしたが、それは、続く冷えた声によって一瞬で凍りついた。

「疲弊したのは我が国も同様。それをお忘れなきよう」
「……それはどういうことでありましょうか」

 下から覗き込むように、ホーキンスは頭を下げた姿でアンリエッタを見上げた。アンリエッタを見るホーキンスの視線に、警戒と不審が入り混じる。向けられる視線に気を払う様子を全く見せず、アンリエッタは席を立つ。
 ホーキンスが先程の発言の意味を聞くが、アンリエッタは何も答えずドアに向かって歩き出した。
 
「陛下っ!」

 ホーキンスの焦った調子の制止の声に、もう話すことはないとでも言うように無言で去っていくアンリエッタ。
 拒絶の意思を隠そうともしないアンリエッタの背中に、ホーキンスはどうすれば止められるか必死に頭を働かせると、直ぐにある思いが湧き上がった。それは、元々民の擁護を得たならば話すつもりだったもの。
 この戦争を終わらせた一人とも言ってもいい英雄についての話。
 しかし、こんな様子のアンリエッタに、それが効果を発揮するかどうか。しかし、逡巡するホーキンスの前には、既にドアノブに手を掛けようとするアンリエッタの姿が。迷ってる暇はないと、先ほどよりも大きな声でホーキンスは声を上げた。

「陛下っ! 陛下の軍を救った英雄について、陛下はご存知でありますか!?」

 アンリエッタはドアノブに伸ばす手を止めない。

「たった一騎で、七万の軍勢を打ち破った英雄を!」

 ドアノブを掴む手が回り、

「赤き英雄のことを!」

 開く寸前ピタリと止まった。



 



 


 ドアノブを回した姿でピタリと動きを止めたアンリエッタの背中に、好機とばかりにホーキンスは次々と言葉を投げかける。

「浅黒い肌の、鷹の目のような眼光を持つ長身の男です。その英雄は、様々な武器を操り、人間業とは到底思えない動きや剣の腕で七万の軍勢を正面から突き破り、このわたしの右腕を切り飛ばしました」
「―――なま、えは……言っていましたか」

 アンリエッタが振り返らない。ドアノブに手を掛けた姿で、声を上げたが、その声は微かに震えていた。
 そのことにホーキンスは気付いていた
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