第八章 望郷の小夜曲
第五話 燃える心
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適温に保たれている筈のホワイトホールを、一瞬で極寒の地に変えた者は、トリステインの代表の一人、枢機卿マザリーニの隣に座る、若き女王―――アンリエッタであった。
晴れ渡った青空の下、煌めく湖のような青い瞳―――今は―――星明かりを覆い隠す分厚い雲の下、吹き荒れる吹雪により底の底まで凍りついた湖のように怖いほど澄んだ蒼い瞳が、円卓に座る面々を睨み……いや、ただ―――見ていた。
しんっ、と静まり返ったホワイトホールの中、互いの呼吸音だけが響いている。
誰も声を上げない。
―――否。
声を上げれない。
このホワイトホールに集まった者はそれぞれの国の代表である百戦錬磨の強者である筈なのだが、それがたった一人の二十にも満たない少女の存在に怯え縮こまっていた。
アンリエッタは何も言わない。円卓の一席に腰を下ろしてから一声も口にしていない。隣に座るアルブレヒト三世が自分が、手に入れる筈であったアンリエッタの身体を舐めるように好色な視線を向けた時も何も言わず、ただ一瞥を向けただけ。だがしかし、それだけで十分であった。氷点下でも生優しい程の冷たい瞳での一瞥は、マグマのように煮えたぎるアルブレヒト三世の欲望を一瞬で冷却したのだ。
人形のような瞳というのとは違う。
意志が感じられないというわけではない。
意志は感じられる。
だた、それが余りにも冷たく……無機質であるが故に、逆にそれが恐ろしい。
それぞれの国の代表は、最初若くして王座に着いたということで、それぞれ侮り嘲りを胸に『諸国会議』で始めてアンリエッタと顔を合わせた際向けられたのは、恐ろしい程冷たく―――固く―――冷徹な視線による品定め。
二十に満たない美しい少女から、虫……いや、それよりももっと無機質な、何かの資料を見るような視線を向けられのは、流石の海千山千の者たちであっても初めてであったのか、その場は笑顔で対応していたが、その心の内は顔を顰め気味の悪がっていた。
余りにも気まずい沈黙を壊したのは、ホワイトホールのドアの向こうから響く大きな足音だった。
音さえ凍りついたかのようなホワイトホールのドアが勢いよく開き、それと共に現れた一人の美丈夫が姿を現す。
その男は目を見張る程の色男であった。がっしりとした体格は、魔法使いというよりも戦士といった風情で、蒼い髪と髭を揺らしながら円卓に設けられた一席に向かって歩いている。
会議に出席する最後の人物、ガリア王ジョゼフは椅子に座ると、円卓に座る者たちをぐるりと見回す。
「いやはっはっはっ、どうやらわたしが最後みたいだね! いやいや済まないね! これでも急いでいたんだが! いやしかし、ハルケギニアの王の面々が、このように集まるのは滅多にないことだ! このような機会に恵まれたこと
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