アインクラッド 前編
Turning battle
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近まで進んだとき、低いオーボエのような音色が部屋に響いた。即座に抜刀した二人の前方で、夜の闇を凝縮したような濃紺の霧が浮かび上がる。それは段々と一箇所に凝縮していき、その度に判然としないシルエットがくっきりと定まっていく。
能面のようなのっぺりとした顔とその前面で不気味に光る二つの眼球、鷲のようなくちばしと羽毛に包まれた翼。梟特有の体つきが露になると同時に、闇色の全身の上で《The invisible wind》の文字が煌いた。
「《The invisible wind》ね……。さて、どうくる?」
その言葉に呼応したように、闇色の梟はマサキに向かって飛翔を開始した。ただ一つの雄叫びも羽音も上げることなく無音で獲物に迫るその姿は、今までに見たどのMobと比べても異質だ。
だが、その気味の悪さを吟味する間がマサキに与えられることはなかった。次の瞬間には既に梟が目前にまで迫っていたからだ。
「くっ……!」
マサキはこの時点で迎撃を諦めた。重心を右へ傾けつつ、自身が持つなけなしの筋力パラメータを総動員して地面を蹴り飛ばす。マサキが元々立っていた場所の右数メートルに胸から着地したときには、闇色の身体は遥か後方に流れ去っていた。
「マサキ!!」
「大丈夫だ、ダメージはない」
トウマの声に答えつつ立ち上がったマサキは、反転してこちらに向かいつつある梟を視認すると、腰の投剣を抜き、腰の脇から手首のスナップを利かせて投げつけた。
投剣スキルに属する単発技《ライズシュート》。基本技である《シングルシュート》と比べ威力は低く、また投げる位置が腰のすぐ横であるため狙いもつけにくいが、その分予備動作が短く出が速いという利点がある技だ。
狙いにくさをものともしないマサキの頭脳によって投じられた投剣は、針穴を通すような精度で梟の右翼に吸い込まれていき、突き刺さった。衝撃によって滑空体勢が乱れ、闇色の体躯がぐらりと傾く。
その隙を逃すことなく、マサキは駆け出した。体勢を崩し、速度が落ちた梟の翼の下を潜りながら、《リベーザ》で斬り抜ける。追撃を喰らった梟が、更に体勢を崩した。
「トウマ!」
「OK、任せろ!!」
言うが早いか、トウマは手に握った大剣を振るった。敏捷一極化ビルドのマサキとは違う、筋力優位型ゆえの高い攻撃力が遺憾なく発揮されたその攻撃が、梟の一本目のHPを5%ほど削る。
(……なるほど。高い敏捷力と引き換えに防御力は低いわけか)
戦闘開始早々にボスのステータスに見当をつけたマサキは、この段階での撤退を頭から消した。この分ならば、ボスの形態変化後に撤退する可能性はもちろんあるが、それ以前に撤退するような状況に追い込まれることはほぼない
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