第38話 誰が為に戦う(4)
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こんなに危険になってしまった。それがあったせいで、あんた達なんて厄介者がこの街に来た」
本音を吐露すればするほど、何もなかった彼女の目に光が戻り、顔に感情が戻ってきたのだ。
しかしそれは普段の陽気な彼女に戻ったことを意味しない。もっと別の、いつもより大きな気持ちが、彼女の中を支配していく。声は段々と大きく、そして不安定に揺れていく。
そしてたまった感情は、唐突に爆発した。
「……それがあったせいでっ、今もジュンゴがこうやって傷つかないといけなかったんじゃないっ!?」
リリーは叫ぶ。陽気な大人の女性、冷静で頼りになる純吾の相方、それらいつも彼女の顔を覆っていた仮面をかなぐり捨てる。髪を振り乱し、こぼれ出た涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、感情のままに叫び続けた。
「何が願望を叶える道具よっ! そんなものがあっても、私の願いはかなわなかった! ジュンゴがっ、ジュンゴがもう無茶なんかしないで、平和に過ごしてほしいってだけなのに!? 無茶をしてもっ、私が身代りになれますようにってだけなのにっ!! そんな願いですら叶えてくれなかった!?」
彼女が口にしたのは、願いと呼ぶほど大きな事ではない。この街のどこにでもありふれている、誰かが誰かを思って行動したいという思い。ただ、それだけのものだった。
「ジュンゴもジュンゴよっ!!」
不意に非難の矛先は、己の主へと向かう。けれどもそれは非難ではない。もっと自分を大切にして欲しいという、祈りをこめた叫びだった。
「あの世界から抜け出せたのに! 力の事を隠せばもう、誰かのために戦わなくったって済んだっていうのに、どうして、ジュンゴは戦おうとするのっ!? どうして、自分を身代りにしてまで誰かを守ろうとするの!?
もう誰のためでもない、自分のために生きてもいいっていうのに、どうして、いつまでも違う人のために戦い続けるのよぉぉお!!!」
胸に抱く純吾に覆いかぶさる。まるで、彼を外界から守る様に身を突っ伏して、リリーは嘆き続けた。
そんな彼女を前にして、その場にいる全員が声をあげることも、動く事もできなかった。
ただ、フェイトやなのは達の目には、そんな彼女がまるで、暗闇の中で親とはぐれ、心細くて泣いているような、一人の女の子の様に見えて仕方が無かった。
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