第三十五話 帝国暦四百九十年の始まり
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の部下達も私が居ると窮屈そうだ」
「……済まんな」
「仕方ないさ、卿の所為じゃない」
「ローエングラム公への挨拶はどうする? しないのか」
エーリッヒがちょっと迷うそぶりを見せた。
「……止めておこう、引き留められてはかなわない。それにここは軍人が多すぎる、息が詰まるよ。済まないが卿から上手く伝えてくれ」
「分かった、そうしよう」
「頼む、……卿も適当に切り上げろよ」
エーリッヒがテーブルから離れた。出口へ向かう姿に不自然な所は無い、おそらく皆はトイレにでも行くのだと思うだろう。
何か有ったな……。さっき落としたグラスだがあれはわざとだ。エーリッヒは酒が飲めない、だが奴が落としたのはカクテルの入ったグラスだった。本来エーリッヒが手に取るグラスじゃない。それにパーティが苦手なのは事実だが付き合いが出来ない奴じゃない。何かが有った、多分総参謀長との話が原因だろう……。
かなり深刻そうな感じだった。そして総参謀長はエーリッヒに丁寧に頭を下げていた。明らかに総参謀長は下手に出ている。何かをエーリッヒに頼んだのだろう。だがエーリッヒにとってそれは必ずしも嬉しい事ではなかったという事だ。或いは何らかの譲歩を迫ったのかもしれない……。だがその事とグラスを落した事がどう繋がるのか……。
オルラウ達が寛いでいる。確かにこいつらにとってはエーリッヒは異物なのだろう。軍の階級では退役中尉、しかし帝国屈指の実力者でもある。無視は出来ないがどう対応して良いか分からない、緊張を強いられる相手なのだろうな。エーリッヒにしてみれば腫れ物に触るような扱いを受けていると感じるのかもしれない。やれやれだ……。
帝国暦 490年 1月 1日 マーナガルム コンラート・フォン・モーデル
黒姫の頭領がマーナガルムに戻ってきた。何か忘れ物でもしたのかな、あれ? 指揮官席に座った。
「如何されたのですか、パーティは……」
「抜け出してきました。私はアルコールが駄目なのでね、パーティは苦手だ」
「ココアでもお持ちしましょうか」
「……出来れば水を貰いたいのだけど」
「分かりました」
水を用意すると頭領は“有難う”と言って一口飲んだ。そして何かを考えている、どうやら喉が渇いていたわけじゃない様だ。
「あの……」
僕が声をかけると頭領は“何か”というように視線を向けてきた。
「この艦隊は戦わないんですか?」
「……」
「勝ってる時には前に出ない、ローエングラム公が負けそうになったら出るって聞きましたけど」
「……」
頭領が僕を見ている。拙い事訊いちゃったかな、でも皆気にしてるんだ、武勲は立てられそうにないって……。頭領がまた一口水を飲んだ。
「戦力的には帝国軍が圧倒的に優位です。しかし戦力的に優位
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