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銀河英雄伝説〜その海賊は銀河を駆け抜ける
第三十五話 帝国暦四百九十年の始まり
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み込んだ四方の壁から鐘の音が鳴り出した。帝国暦四百八十九年が終わり四百九十年が始まったというわけだ……。上座に居るラインハルトがテーブルに近付く、俺も傍に有るテーブルに近付き出来るだけ大きなグラスを取った。赤い液体が入っているが何でも良い、どうせ飲むつもりは無い。

ラインハルトがシャンパンを満たしたクリスタル・グラスを高く掲げると皆がそれに応じる。
「プロージット!」
「プロージット! 新たなる年に!」
「プロージット! もたらさるべき武勲に!」
「プロージット! 自由惑星同盟最後の年に!」

覇気に富んだ乾杯の声が上がる中、ガシャーンという音がしてグラスが砕けた。床に液体が流れる、綺麗な赤い液体だ。皆の視線が俺に集まった。
「失礼、手が滑りました」
俺が肩を竦めて答えると昂然とした空気は消え何処か白けた様な空気が会場に流れた。無粋な奴、間の悪い奴、そう思ったのだろう。

トゥルナイゼンが悔しそうな表情で俺を見ている。やはりこいつは“自由惑星同盟最後の年に”と叫んだ。ラインハルトの気を引こうとしたのだろうが残念だったな。少しだけだが気が晴れたよ。ウェイターが現れ砕けたガラスを片付け始めた。ヒルダが俺を見ている、目立つ事をするとでも思っているのかもしれない。悪いね、二人とも。でもどうしても我慢できなかったんだ……。



帝国暦 490年  1月 1日   フェザーン  ナイトハルト・ミュラー



会場では彼方此方のテーブルで談笑する軍人の姿が有る。新年を迎えてのパーティ、しかも出撃を控えている。本来なら会場はもっと荒々しい様な、昂然とした空気に満ちていて良いはずだが何処か白けた様な空気に支配されている。タンと音がした。エーリッヒがグラスをテーブルに置いたようだ。

「ナイトハルト、私は艦に戻る」
「戻る? 帰るのか」
始まってまだ十分も経っていない。俺の問いかけにエーリッヒが頷いた。
「出立前に少し休んでおきたいんだ。それに私はアルコールが駄目だからね。パーティは苦手だ」
「……そうか」

このパーティの終了と同時に帝国軍の一部はフェザーンを出立する。今日出立するのは四個艦隊だ。第一陣はミッターマイヤー提督、第二陣はロイエンタール提督、第三陣が俺、そしてエーリッヒは第四陣。ローエングラム公はアイゼナッハ、ルッツ提督と共に一月十九日にフェザーンを出立する。そしてその五日後、まだここには来ていないビッテンフェルト、ファーレンハイト提督がフェザーンを出立する。全軍の集結地はポレヴィト星域……。ミッターマイヤー提督が出立するのが大体二時頃になるだろう、エーリッヒの出立時間は四時頃になるはずだ。休みたいというのはおかしな話ではない……。

エーリッヒが身体を寄せてきた、小声で話しかけてくる。
「それに卿
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