第百二十六話 溝その六
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「ここはお諌めでよいかと」
「そういうことじゃな」
「それにです」
池田は主にさらに言う。
「どうも最近公方様にしましても」
「大人しくないのう」
「それもかなり」
このことが問題だった、とかく。
「幕臣や侍女の方々に怒鳴る、兵糧を勝手に銭にしたりと」
「贔屓もあるのう」
幕臣の中でそれをしているというのだ。
「そうしたことがどうもな」
「気になってですな」
「前からな」
今にはじまったことではないというのだ、信長はそうしたことも既に見ていて考えていたのである。そのうえでのことだったのだ。
「どうかと思っておった」
「殿も怒られることがありますが」
「それでもですな」
「わしは理不尽に怒ることは好かぬ」
よく癇癪だとも言われるが実際はそうなのだ。
「怒る時は全力で怒る、しかしじゃ」
「無闇やたらにはですな」
「怒ることはされませんな」
「それで器を見られる」
怒り方に怒る時、そうしたことを全て考えてそのうえで怒らなければそれを見抜かれてしまうというのだ、信長もこのことをわかっている。
それで怒ることについてもだというのだ。
「それではじゃ」
「とてもですな」
「迂闊には怒ることは出来ませぬな」
「ほんの少しのことで見られる」
その器がだというのだ。
「怒ることも怖いことぞ」
「公方様はそれをですな」
秀長も言う。
「よくわかっておられませぬな」
「うむ、そこがな」
「残念なことですな」
「丁度よい時か。それでじゃが」
今度は山内を見て言った。
「少し頼めるか」
「何でありましょうか」
「都に行ってくれ」
こう山内に言ったのである。
「お諌めする前に勘十郎に伝えよ」
「勘十郎様にですか」
「公方様をよく見てくれとな」
この場合は見守るだけではなかった、他にもだった。
「朝倉家と仲良くされては困るわ」
「織田と朝倉はまさに犬猿の仲でありますからな」
「どうしても好かぬ」
信長は自身の感情も出した。
「昔からな」
「朝倉は気位が高うございます」
林通具はいささか皮肉を込めて言った。
「我が織田家ははじまりは越前の神主でした」
「うむ、そこからじゃ」
「しかし朝倉家は守護斯波氏の直臣でありました」
つまり家柄が違うのだ、同じ斯波氏の家臣の出であっても。
「しかも朝倉家は長きに渡って越前を治めておりまする」
「織田家はようやく数年前に尾張を一つにしたわ」
「格が違うと思っておるのです」
朝倉の方でそう思っているというのだ。
「だからこそであります」
「当家を侮っておるな」
「侮りそして」
通具は言葉を続ける。
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