第四幕その六
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第四幕その六
「まさかとは思うが」
「これは」
ファウストは上を見上げた。
「光が見える」
「やはりか?」
その彼を見て顔を顰めさせるメフィストだった。
「ここで善を見るのか?」
「光り輝く丘の上に輝かしい人達がいる」
「まさにそれだ」
「空に賛歌が聞こえる」
「悪魔の歌では間違いなくない」
確信せざるを得ない言葉だった。
「それでは」
「かくも輝かしい黎明の聖なる光の中で」
ファウストは上を見上げながら恍惚としだしていた。
「至福を感じている。私は自分の中で気高い言葉に尽くせぬ時を感じている」
「用心しなければ」
メフィストはいよいよ身構えていた。
「善と悪、どちらが勝つかわからない」
「私はあの中に」
「博士」
悪魔はすぐに彼に後ろから声をかけた。
「宜しいでしょうか」
「何だい?」
ここでも彼には顔を向けないのだった。
「今一体何を」
「お好きな場所へ」
旅を勧めてきたのである。
「どちらに行かれますか?トルコですか?それとも東のヒーナですか?」
「あの国にか」
「そう、あの国です」
中国のことである。中国のドイツ語読みがヒーナなのである。
「あの国に今から」
「いや、今はいい」
「あの国程豊かな国はありませんよ」
「いや、それはいい」
そう言うしかないファウストだった。
「それはもう」
「いいのですか」
「今の私は」
彼がこう言うとであった。すると。
上からである。声がしてきたのであった。
「幸いなるかな」
「我等の主よ」
「天使に聖人達よ」
「そしてこの世の主達よ」
「やはり来たか」
その声と上から降り注ぐ光を受けていよいよ眉を顰めさせるメフィストであった。
「ここで」
「さあ、今こそ祝福を」
「我等の主よ」
「博士」
メフィストは書斎の中を一変させてみせた。緑と紅の世界であり緑の草原の中に淡い紅のもやが漂い香りは薔薇のものである。実際に周りには薔薇が咲き誇っている。
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