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王道を走れば:幻想にて
第四章、その8の1:示す道
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。両陣営の猛々しい剣戟が混じり合う寸前での、些末な出来事であった。
 その後の顛末は、特筆するに値はしない。家屋からの奇襲によって精神的に強い動揺を覚えたのだろう、盗賊等の動きは精彩を欠き、二人で一人を相手とするエルフ側の連携を崩せなかったからだ。しどろもどろとなっているうちにユミルの冷酷な矢が騎手を射抜き、歩兵が背中から切裂き、或はパックが馬に飛び移って騎手を斬殺するなどで、交戦はものの二十分足らずで終わってしまったのだ。盗賊等は全員死亡、しかし此方の被害は死者五名に上り、これは数の少ないエルフ側にとっては大きな痛手といえよう。

「こんのっ、暴れるなって!」

 肌に浅い矢傷を負って暴れている馬をパックと兵士らが武器を使って諌めようとしている。盗賊等より鹵獲した馬は合わせて七頭ほど。他は乱戦の最中に倒れてしまうか、足をやられて使い物にならなくなっている。来るべき会戦に際してはこの七頭も利用する心算であり、なるべく傷つけないようにしなければならなかった。
 比較的無事な者が負傷者を運び、そして亡くなった仲間を背負って森へと撤退していく。ユミルは盗賊等の死体から使えそうな武具を全て剥いだ後、衣服を赤黒く染めた重たいそれらを燃え盛る炎の中へと投げ入れる。重みでばちばちと木屑が潰されて、明るい炎が肉体を舐めて焦がしていった。
 顔に撥ねていた返り血を拭っていると、傍にパックが歩いてくる。馬を諌めるのに難儀した様子で息を切らしており、何も言わずに炎の成り行きを見詰めていた。その呼吸が整い始めた時、ユミルが彼に話しかけた。

「パック。奴らを見てどう思った?」「・・・そうだなぁ、悪く言えば烏合の衆だけど、でも群れてるだけあって自信は相当のもんだと思うぜ。一撃入れた所じゃすぐには潰せないだろうなぁ。
 あとあいつら、食糧が欲しくて連携してるんだろ?欲しいもんが手に入るまで、あいつら絶対に妥協しないだろうね。そういう手合いだよ」
「今度は更に群れて来るだろうな」「最早是非も及ばずだろ?頑張って生きようぜ〜。甘いモン全然食ってないんだからよぉ」「お前は本当に自由だな・・・」

 いつでも軽い態度を崩さぬ男だと、ユミルは思わず呆れ混じりに首を振った。再び投げ込まれた死体が、既に放り投げられた死体を折り重なって瓦礫に突っ伏す。顔を袈裟懸けに切られたそれは、激情によって大きく表情を歪めている。飢えに苛む悪鬼の如き形相であり、とても人間のするものとは言い難いものがあった。
 夜空を薄い雲が流れていく。何時もなら見えるはずの満天の星空は、今宵は太陽が昇るまで見えないままであった。


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 朝焼けの静けさを浴びるタイガの森から離れた平原を、西に向かう二つの騎馬が見える。先導するのは理想の炎に目を光らせる青年、チェスターで
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