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王道を走れば:幻想にて
第四章、その8の1:示す道
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という一心で彼は伏兵として闇の中へ身を潜めているのだ。姉心を汲めない程阿呆ではないが、しかし戦場に身を置くからには危険と隣り合わせになるだろう。冷静な面持ちでいる一方、心配の念で胸が一杯であるのが指の落ち着きの無さから窺えて、パウリナは口元の緩みをコップで隠さざるを得なかった。ちなみにパウリナは毒茸を食したせいで腹を壊しており、今は隣室の寝台の上で重苦しく唸っている。
 口内に満ちる爽やかな味わいに息を吐く。長時間の資料閲読によって発していた頭痛が少し和らぐような気がして、キーラは茶の効用というのに心から感謝した。リタが穏やかな口振りで問うてくる。

「そういえば、東の方より手紙を頂いたと窺ったのですが」「ええ。ケイタク様からです。後一週間ほどで此方に戻って来るそうですよ」
「ふふ。これで私達も漸く元気を貰えますわね」「あの二人が居ないと、どこか退屈してしまいますから。好意的ではない人々に囲まれればそうなるのも当然かもしれないですけど」
「正直に仰ったらどうです?うんざりすると」「言いませんよ。ケイタク様だって耐えられるのですから、私も頑張らないと。どんな侮蔑を受けようとも貴族である誇りは穢したりはしません」

 キーラがそう言うと同時に、夜闇を裂くようにけたたましい鐘の音が響き渡る。安眠に就こうとしていた者達の意識を醒ます剣呑な音。それは森の方々に築かれている見張り塔が告げる、危急の報せであった。

「・・・この音は」「盗賊が襲ってきたに違いありません。後は運を彼らに託しましょう」

 自分に出来る事は何もないとキーラは悟る。エルフの風土を勉強しながら調停団の今後の日程を決定したり、住民とのコミュニケーションを形成したりしかしてこなかったのだ。軍事についても専門の者達に比べれば劣後するものであろう。森の一角で刃を交えているであろう仲間達を想い、キーラは手を組んで彼らの無事を祈った。
 果たして見張り塔に登っていた兵士は森の外れから来る、素早く移動する幾つもの明るい炎とそれに照らされる人影らしきものを瞳に捉えていた。人の脚とは思えぬ速さで移動しており、目をじっと凝らすと土煙が立っているのが見えた。現下の状況を鑑みる限り先日襲撃を仕掛けていた盗賊の騎馬隊と見て間違いないと確信して、兵士は鐘を鳴らしたのだ。その予想は見事に的中している。数えて十数の馬には下卑た顔付をした男達が騎乗しており、幾人は松明を、そして全員が使い古された武器を携えていた。

「火を点けろぉっ!殺しちまえぇ!」

 住民が逃げ込んだであろう目的の農家を騎馬が囲むと、松明を投げ付けて一息に燃やしていく。轟々と火花が散って家の壁を炎が駆けて、十秒も経たぬうちに屋根まで燃え移ってしまった。一隊を率いていた大柄な男は蛮声を響かせる。

「食料はどうしたエルフ共!早
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