番外編
青騎士伝説 中編
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アインクラッドで最凶最悪と恐れられた、殺人鬼の名前だった。
◆
SAOの歴史に残る最悪の殺人者、PoH。
最も強く、最も残酷で、最も殺したと言われる殺人鬼であり、アインクラッドにおける恐怖の体現者とまで称されたその男。しかしその男は、自分にとってはそれだけでは無い……遥かに深い因縁のある相手だ。
あの夏の日、『冒険合奏団』を壊滅させたその事件の首謀者。
そして、シドの心を砕き、ソラを殺した相手。
最も憎み、真っ先に復讐すべき敵であるにも関わらず、自分は咄嗟に斬りかかることが出来なかった。それは決闘のルールだからだとか、『青騎士』はどんな時も感情を表さないものだからだとか、そんな冷静な理由があってのことでは無かった。
震えていた。
あまりの感情の激流に、震えていた。
もちろんそこには、恐怖もあった。
自分はあの日の夜の、ベッドで泣いていたシドをはっきりと覚えている。いつも飄々としていて底が知れず、いつだって余裕を失わず、常に自分の二手先、三手先を見て颯爽と立ちまわっていた彼を、あそこまで打ちのめした相手。到底自分が渡り合える相手とは思えなかった。
しかしその感情は、ありこそすれども、僅かな分量でしかなかった。
他の、もっと強く、激しく、猛る感情に流されて撹拌され、消えゆく程度だった。
雨で三歩先も見えない視界に、唐突に鮮明な映像が浮かび上がる。
あまりの激情に頭がおかしくなったのか、見えるはずのない視界がフラッシュバックする。
(……!)
それは、あの夏の日の、古びた回廊。
代わる代わる浮かび上がるのは、自分が向かい合った三人のレッドプレイヤー達。
そうだ。あの時と、同じ。
自分は、自分の力を信じられず、逃げ出したのだ。
自分がやらなければ、他の誰かが……いや、ソラが犠牲になると、分かっていたはずなのに。
(…………)
逃げるのか。逃げるのか。逃げるのか。
何度も反響する、纏わりつく粘ついた問い掛け。
「――――――っ!!!!!!」
意識が、真っ赤に染まっていく。
逃げるものか。
今日こそ、今日この日にこそ、自分は存在した。
あの日の自分の罪を背負うために、自分は強くなった。
あの日の敵に罰を下すために、自分はここまできた。
―――自分は、あの日に戦えるほどに強かったのか?
それを示すのは、今。
他でもない、今。
神から与えられた、己の想いを示す、闘うべき時は、今。
感情の本流は火種となり、油となり、風となり、
「ああああああああああああああああ―――っ!!!」
燃え上がった炎が、喉から絶叫となって響き渡った。
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