暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン 〜無刀の冒険者〜
番外編
青騎士伝説 中編
[8/10]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
 アインクラッドで最凶最悪と恐れられた、殺人鬼の名前だった。





 SAOの歴史に残る最悪の殺人者、PoH。

 最も強く、最も残酷で、最も殺したと言われる殺人鬼であり、アインクラッドにおける恐怖の体現者とまで称されたその男。しかしその男は、自分にとってはそれだけでは無い……遥かに深い因縁のある相手だ。

 あの夏の日、『冒険合奏団』を壊滅させたその事件の首謀者。
 そして、シドの心を砕き、ソラを殺した相手。

 最も憎み、真っ先に復讐すべき敵であるにも関わらず、自分は咄嗟に斬りかかることが出来なかった。それは決闘のルールだからだとか、『青騎士』はどんな時も感情を表さないものだからだとか、そんな冷静な理由があってのことでは無かった。

 震えていた。
 あまりの感情の激流に、震えていた。

 もちろんそこには、恐怖もあった。

 自分はあの日の夜の、ベッドで泣いていたシドをはっきりと覚えている。いつも飄々としていて底が知れず、いつだって余裕を失わず、常に自分の二手先、三手先を見て颯爽と立ちまわっていた彼を、あそこまで打ちのめした相手。到底自分が渡り合える相手とは思えなかった。

 しかしその感情は、ありこそすれども、僅かな分量でしかなかった。
 他の、もっと強く、激しく、猛る感情に流されて撹拌され、消えゆく程度だった。

 雨で三歩先も見えない視界に、唐突に鮮明な映像が浮かび上がる。
 あまりの激情に頭がおかしくなったのか、見えるはずのない視界がフラッシュバックする。

 (……!)

 それは、あの夏の日の、古びた回廊。
 代わる代わる浮かび上がるのは、自分が向かい合った三人のレッドプレイヤー達。

 そうだ。あの時と、同じ。
 自分は、自分の力を信じられず、逃げ出したのだ。
 自分がやらなければ、他の誰かが……いや、ソラが犠牲になると、分かっていたはずなのに。

 (…………)


 逃げるのか。逃げるのか。逃げるのか。
 何度も反響する、纏わりつく粘ついた問い掛け。

 「――――――っ!!!!!!」

 意識が、真っ赤に染まっていく。
 逃げるものか。
 今日こそ、今日この日にこそ、自分は存在した。

 あの日の自分の罪を背負うために、自分は強くなった。
 あの日の敵に罰を下すために、自分はここまできた。


 ―――自分は、あの日に戦えるほどに強かったのか?

 それを示すのは、今。
 他でもない、今。
 神から与えられた、己の想いを示す、闘うべき時は、今。

 感情の本流は火種となり、油となり、風となり、

 「ああああああああああああああああ―――っ!!!」

 燃え上がった炎が、喉から絶叫となって響き渡った。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ