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番外編
青騎士伝説 中編
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10メートル先も見えない。そのせいか、霧の向こうから話しかけられるように、相手を視認できない。だというのに、その声は粘りつくようにファーの聴覚にまとわりついてくる。

 声が言うように、『青騎士』は、どう見ても満身創痍だった。具足は最初は完全に修繕されていたのに既に耐久値を半分以上削られ、足から出るステータス異常エフェクトが彼の行動力を殺ぐ。鎧の関節の隙間に刺さったいくつもの鉄矢は、既に彼の装備可能重量をかなり圧迫している。これではタワーシールドはまともに使えないだろう。

 「……」

 だが、『青騎士』は止まらない。

 罠を破壊するために使っていた片手槍をストレージに仕舞って、長槍、《ミスティルテイン》を取り出して、再び歩み始める。雨に濡れて傷だらけになってなお薄青い輝きを放つ鎧を纏い、同色の鉄仮面のスリットの奥の目を爛々と輝かせて。だが、相手の声はあくまでも冷静だった。

 「やれやれ。あくまで戦う、と。我々は君が「負けた」と言って、二度と『青騎士』とならないことを誓ってくれればそれでいいのだがね。ならば仕方ない。もう少しだけ、舞台は延長だ。少々地獄を見て貰おうか?」

 雨で煙る視界に隠れた向こうで、パチン、と指の鳴る音が響いた。同時に、丘の端の方の一端に光が灯る。何らかの製作アイテムなのだろう、まるで街灯の様な高いランタンの照らす下には。

 「あ、『青騎士』さぁん!?」「なんでっ!?」「に、逃げてください、はやくっ!」

 やはりプレイヤーメイドなのか、大きな鉄檻の中に捕えられた三人の少女。隠蔽していないのでファーの然程高くない『索敵』スキルでも見えるカーソルの名称は、『ウヅキ』、『ハヅキ』、『ナガツキ』。人質と名前を伝えられた、三人の少女。それぞれが、ずぶぬれになりながら悲痛な声を上げる。

 「……」

 しかし、それに『青騎士』は反応しない。
 むしろ、訝しむほどだ。これが、こんなことが今更何だと言うのか。

 ファーは人質の為に戦っている訳ではない。人質など取らなくても逃げたりはしない。相手だってそれは分かっているはずだ。でなければ、彼の思考や行動をあそこまで完璧に予測できたはずがなく、あんなに彼の進む時間を読み切って音声クリスタルを設置出来たりはしない。

 訝しむファーに、答えは目の前の空間からもたらされた。

 「これは演出なんだよ、『青騎士』君。観客がいて、戦士が二人いるんだ。ならばやることは一つさ。……そう、『決闘』だよ!」

 高らかに謳い上げられ、表示される決闘申請。

 ついに、煙る雨のカーテンの向こうから現れる、黒い影。
 そしてウィンドウに表示される文字は、

 ―――()()() is challenging you―――


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