第四幕その三
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第四幕その三
「凛々しい方ですね」
「この娘達にも話したが」
メフィストは今度はそのエレナにファウストを説明しだした。
「この方はファウストといって帝国の有名な学者で」
「では頭の方も」
「最高の頭脳を持っておられる」
こう紹介するのだった。
「それは私が保障する」
「伝説の美女エレナが」
ファウストはそのエレナを見ながら話していた。
「今私の前に」
「如何でしょうか」
メフィストは恭しくファウストに問うてきた。
「彼女は」
「何と美しい」
こう答える彼だった。エレナの顔を見て恍惚となっている。
「まるで月の様だ」
「今空にある青い月の様に」
「そう、その通りだ」
エレナを見ながらメフィストの言葉に答える。
「神話にある以上の美しさだ」
「有り難うございます」
エレナはファウストのその言葉を受けて優雅に微笑んできた。
「そのお言葉受けさせて頂きます」
「それはどうも」
「そして」
「そして?」
「ここで私は言いましょう」
エレナを見ながらの言葉である。
「貴女に対して」
「私に対して」
「そう、貴女に対してです」
こう言ってからであった。
「永遠の美の理想を現わす貴女に対して」
「そこまで仰って下さるとは」
「一人の男が今貴女を見ています」
そうしているというのである。
「そして」
「そして?」
「その目を見せて下さい」
こうも言ってみせたのである。
「その目をです」
「私の目を」
「月の如く清らかに美しく太陽の様に激しい」
それがエレナの目だというのである。
「その目をです」
「では私もまた貴女に」
「私は忘れるべきなのか」
しかしここでファウストはふと呟いた。
「彼女のことを。もう」
「それでは私達は今は」
「愛がここでもまた」
「生まれようとしているのね」
その二人を見た川の精霊達はこう言うのだった。
「新たな愛が」
「ここで」
(私は)
今度は心の中で呟くファウストだった。
(マルゲリータを)
「ふむ、どうやら」
メフィストはその彼を見て呟いた。
「これは今一つだな」
「私は」
ここでまた言うファウストだった。
「貴女を美しいと思っています」
「はい」
「ですが」
ここで、あった。言うのであった。
「それでもです」
「どうかされたのですか?」
「今は貴女をそう思うだけです」
それだけだというのである。
「美しいと」
「それで充分でないのですか?」
「いえ、そうではありません」
その言葉は何処か醒めている。
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