第六章 復讐
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現実を受け入れざるを得ない。ハンカチを取り出
し涙と洟を拭い、心を静めた。あのしわがれ声の主に交渉するしかないのかもしれないと
覚悟を決めた。桜庭は震えながら聞いた。
「本当の私の人生はどうなってしまったんですか」
「お前は、6年前に死んだ。本来であればあの世に戻って次ぎの出番を待っていればよか
った。だが、私がそれを阻止した。中条も同じだ。中条はもう少しで自分の創った地獄か
ら抜け出す寸前だった。それを私が掻っさらった。私の創った地獄に引き込んだ」
「私はどんな人生を送ったのです」
「社会的に成功し、老後は孫達に慕われ、好々爺を演じきった。幸せな一生だった。葬式
の時は、みんな泣いていた。死して後、そんなお前を待っていたのが、この地獄だったと
は、誰一人想像だにしなかっただろう」
桜庭は糸口を探していた。何とかこの世界から逃げ出さなければ。
「ところで、さっきから言っている、空って何です。」
「全てを包み込み、全てを生じさせている本源だ。宇宙そのものだ。私はその空の一部を
我が世界に変えた。死んでも死に切れなかったからだ。お前たち二人がのうのうと生きて
行くことをどうしても我慢がならなかったからだ」
桜庭は、やはりという思いを抱いた。やはり、少女の怒りや恨みを解消するしかないのだ。
そうとなれば話は早い。
「お嬢さん、あれは事故だったんです。それに私は貴方に手をかけていません。あの時、
貴方の首を絞めた中条なんです。私はただ口を塞いでいただけです。もしそれで貴方の気
が済むのであれば、謝ります。本当に申し訳ありませんでした」
そう言って桜庭は土下座した。大きな溜息が聞こえた。その溜息の意味を探ろうと視線を
上げた。桜庭はその光景を見て、恐怖に打ち震え悲鳴を上げた。
5人の女達が桜庭を睨んでいる。詩織、香織、香子、泉美、そして母親である。桜庭が
心から愛した女達だった。全員が口を揃えて言い放った。
「お前は、まだこの世界から出られない。今一つ試練が残っている。私が味わった死の恐
怖が残されている」
母親が大股で近付き桜庭の左肩つかむと、窓辺まで引きずっていった。桜庭は必死で抵
抗を試みたが、その力はこの世のものではない。桜庭の右手つかみレバーを握らせ、窓の
ガラス戸を開けさせた。
詩織は机に駆け上りぴょんと飛んで桜庭の首にしがみついた。香織は桜庭の右足を持ち
上げ、香子と泉美が尻を押し上げた。桜庭は一瞬の出来事にあっけにとられた。首が窓の
外に出た。15階から見下して、恐怖に身の毛が弥立った。
首にしがみ付いていた詩織が両手に力を込めて首を後に向けた。桜庭は中条に向かって
涙ながらに助けを求めたのだが声はでない。中条が呆然と見詰めている。秘書が叫んだ。
「どうなさったのです、部長。
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