第六章 復讐
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、お前はこの世界の住人だ。私とお前、そしてここで私の胴体を形作っている篠
田。この世界には、この3人しかいない」
「馬鹿な、そんな馬鹿な、俺は40年も生きてきた。それがすべて幻とでもいうのか。こ
の目の前にある俺のこの手も幻とでも言うのか」
「なにー、お前の手だって、手がどうした」
目の前にかざした手が、指先から砂が零れように崩れていった。
「ぎゃー」
世界が崩れてゆく。桜庭が40年生きてきた世界が一瞬にして崩壊したのだ。桜庭は気が
狂ったと思った。目を閉じ、ひくひくとと震えながら狂気が去るのを待った。こんな現実
などありあえない。悪い夢だ、幻覚をみているのだ。
十分に落ち着いたつもりで、恐る恐る目を開けた。目の前には自分の手が見える。ほ
っとして視線を上げて、再び桜庭は悲鳴をあげた。まだ少女が憎悪を剥き出しにして睨ん
でいたからだ。絶望とともに桜庭が叫んだ。
「俺の人生は何だったんだ。40年の俺の人生は幻で、あんたの復讐のために、この瞬間
のためにだけあったとでも言うのか」
「お前の人生なんて私が吹き込んだ記憶に過ぎない。今回、お前の人生の始まりは、あの
時効成立の時だ。あの時計が零時をさした瞬間から始まったに過ぎない」
「それじゃあ、この会社の連中も存在しないのか。志村もデザイナーの福田も幻なのか。
」
「そうだ、お前の記憶を借りて、お前の心に映し出した幻だ」
「泉美も、香子もそうなのか」
突然、少女の顔が目まぐるしく動き、成長していった。動きが止まって、女が桜庭に微笑
んだ。桜庭は悲鳴をあげた。香子だ。香子もあの少女が歳を重ねた女だったのだ。
またしても顔が動き、徐々に太り出した、ふくよかな顔になってゆく。少しづつ印象
が違ってきた。そして止まった。銀座のバーで出会った頃の泉美だ。それを見て、桜庭は
一際大きな声をだして泣きだした。
顔は急激に太っていった。その変化は桜庭も知っていた。一緒に暮らしていたからだ。
突然、顔がぐしゃっと潰れた。桜庭は正視できずに、顔を両手で覆った。そして迷子にな
った子供が母親を捜して泣くように、しゃくりあげながら母を呼んだ。
「お母さん、お母さん。助けて、助けて、お母さん。こんなの現実じゃあない」
「桜庭、見ろ、私を見るんだ。現実を見せてやる」
見ると、泉美の顔が急激に動いて痩せてゆく。皺が増えて、最後には桜庭の母親になった。
我を忘れて叫んだ。
「お母さん、助けて、ここから連れ出して、頼む」
桜庭の一縷の望みは、裏切られた。母親の口からあのしわがれた声が響いたのだ。
「私はお前の母親ではない。本当の母親の記憶は消してやった。お前がこの世で唯一愛し
た女だったからな」
こう言うとけたたましく笑い続けた。
桜庭は体中の力が抜けた。もはやこの
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