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怨時空
第六章 復讐
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て肉片と砕けた骨が飛んだ。風船が破裂
するように中条の顔がぱかっと破裂したのだ。唖然と目を剥く桜庭の視線が捉えたのは、
小さな顔である。よく見るとそれは赤ん坊の顔で、それは大きな体の上にちょこんと乗っ
ている。
 両の手がゆっくりと動いてその顔にこびりついた血を拭う。小さな顔は皺だらけで産毛
が蛍光灯の光に反射してうっすらと浮かび上がった。生まれたての赤ん坊にしては大きな
目が桜庭を睨んでいる。その小さな唇がゆっくりと動いた。歯はまだ生えていない。
「どうした、桜庭、何をびくついている」
老婆のようなひび割れた声が響いた。
 驚愕に眼を剥き、恐怖が歯を鳴らす。さわさわという感覚が体中に飛び火し、体ががた
がたと震えていた。桜庭が絶叫した。
「これはいったいどうなっているんだー 」
赤ん坊はただ笑っているだけだ。桜庭は声を張り上げたが、殆ど泣き声になっている。
「いったい、何が起こったたんだ。どうなっているんだ」
小さな唇が僅かに開かれ、奈落の底から響いてくるような不気味な笑い声が聞こえてくる。
それが次第にけたたましい笑い声に変わった。桜庭のうろたえ恐れる様子を心から楽しん
でいるようだ。突然、赤ん坊の怒鳴り声が響いた。
「何故、志村が探し出したインターネットの映像を最後まで見なかった。顔が成長してい
たはずだ。詩織、香織までは見たんだろう。えー、お前もそこまではみたはずだ。何故、
最後まで見なかった。現実を認めたくないのだろうが、これが現実なんだ。見せてやろう」
 赤ん坊の顔は見る見る成長してゆく。徐々に大きくなって、目鼻立ちがしっかりとして
いった。最初、詩織の顔になった。次ぎに香織、そして、桜庭は悲鳴を上げた。恐怖で気
が狂いそうだった。身の毛がよだった。
 あの少女だ。熊本で殺したあの少女の顔がそこにあった。桜庭が中条と二人で、抱きか
かえて崖上から海に投げ込んだ、あの少女だった。少女がにやりとして、あのしわがれた
声で言った。
「私の世界にようこそ、桜庭。この瞬間がくるのを待っていたよ」
桜庭は恐怖で失禁してしまった。涙と洟で濡れた唇を動かした。
「ここはどこなんだ」
「ここは、私が死んだ場所だ。あのホテルはとうに取り壊され、今は別のホテルが建ち、
ここはその壁の中、地上1メートルの所だ」
「地上1メートルだって」
「そうだ、空に生じた歪み、塵ほどの大きさもない、亜空間だ。現世と来世のちょうど境
目に出来た私の城だ。境目にはあやふやな領域がある。私の憎悪と復讐心がその領域の空
を歪ませて、この世界を作った」
「何を言っているんだ。さっぱり分からない。私はこの世の人間だ、こんな訳の分からぬ
世界には用はない。さあ、帰してくれ。お願いだ、元の世界に俺を戻してくれ。頼む」
「いいや
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