第六章 復讐
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へたりこんだ。脚の力が一瞬にし
て抜けてしまったのだ。志村が桜庭に視線を落として声を掛けた。
「どうしたんです、部長。大丈夫ですか?」
桜庭は肩で息をしながら立ちあがった。
「大丈夫だ。ちょっと目眩がした。もう、大丈夫」
そう言うと逃げるように制作室を後にした。
ようやく部長室に辿りつき、どっかりと椅子に腰掛けた。息が苦しく、動悸が高鳴った。
ショックで息が止まるかと思った。しかし、他人の空似に違いなかった。そんなことはあ
り得ない。そう思うことで、自分を納得させた。
秘書がインターフォンで来客を告げた。桜庭は気を取り直し、ネクタイを直した。コン
ピューター画面に見入る振りをする。ドアが開かれ、訪問者が顔を覗かせた。画面から視
線を訪問者に向ける。そこで鷹揚に……。
桜庭の背筋の芯に慄然が走った。死んだはずの中条が顔を覗かせ、にんまりとして微笑
んでいるのだ。桜庭は呆然として唇を震わせながら言った。
「お前は死んだはずだ、な、な、何故……」
と、絶句し、まるで幽霊にでも出会ったように驚愕の眼で中条を見詰めた。次第にその顔
は恐怖で引き攣り、体はがたがたと震え出した。中条は桜庭の反応に途方にくれ、秘書の
方を向いて言った。
「おい、おい、俺が死んだなんて誰から聞いたんだ。それに何故そんなに驚いているんだ。
こちらの秘書の方に電話して、俺の名前を言ったはずだ。ねえ、秘書のお姉さん、名前を
名乗ったよね」
桜庭に話しかけられ、秘書は不審そうに立ち上がると部屋に入って来た。秘書は思わず手
を口に手を当てた。桜庭の異変に気付き、声を掛けた。
「部長、どうなさったのです。中条様です。サンコー産業の中条課長です。アポイントは
頂いております。部長にもそう申し上げました」
桜庭は椅子から立ち上がり、狂ったように叫ぶ。
「貴様は死んだはずだ」
そして、よろよろと中条から逃げようとするのだが、足元がおぼつかない。はずみに机の
上の水差しを倒し、水差しは床に落ちて粉々に砕けた。その瞬間に水を打ったような静寂
が訪れたのだ。
この時、全てが止まったのだ。秘書も、中条も、ぴたりと動かなくなった。桜庭は何事
かと、あたりを見回した。窓から外を見下ろすと、全てが止まっている。人々の踏み込ん
だ足は途中で止まり微動だにしない。黄色信号を走りぬけようとした車は交差点の真ん中
で静止したままだ。静寂が世界を支配していた。
その世界でただ一つ動き出した人間がいる。中条である。最初ぴくりと体が動いた。そ
して両手で顔を覆う。体全体が震え出した。注視すると中条の顔が膨張している。両手で
押さえつけるが、全く無駄な足掻きだ。ぴしっ、ぴしっと肌が破れ、血が滲む。
「ぎゃー」
絶叫が部屋全体にこだました。ぱっと血が散っ
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