第六章 復讐
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忙しい一日が終わろうとしていた。会議を終え部長室に戻ると、コンピュータ画面を開
き、今日のスケヂュールをチェックする。4時半に山口の紹介だというカメラマンが作品
を持ち込むことになっている。約束の時間まで30分ある。桜庭は部屋を出た。
桜庭は制作室が好きだった。そこには自由な雰囲気が漂っており、皆、仕事をしている
のか遊んでいるのか判然としない。制作マンは発想が全てであり、それには自由が一番と
いうわけだ。実を言うと、桜庭は入社当時、希望が叶い制作マンとしてスタートした。
ここには、失われた青春の苦い思いが未だ漂っていた。入社2年目で営業にまわされた
時の悔しさは忘れられない。いっそ辞めようかと思ったほどだ。そこで歯を食いしばった
おかげで、今は営業のトップ。目を閉じ感慨に耽っていると、突然、大きな笑い声が響い
た。見ると、一角で、志村が回りを巻き込んで騒いでいる。
志村は大手製薬メーカーの会長の孫で、コピーライターとして縁故採用された。どう読
んでも独創性のないコピーに辟易しながら、それを誉める自分にうんざりしていたのだが、
相手が有力者の孫ではどうしようもない。
お追従を言おうと近付いた。満面の笑みを浮かべて、話しかけた。
「何を騒いでいるんです。またインターネットで何か面白いものでも見つけたんですか?」
志村が振りかえり、答えた。
「これ見てくださいよ、部長。このコピー勉強になりますよ。いいですか、『女の園によ
うこそ。女のアレの成長をご覧にいれます。ゼロ歳から70歳まで。人生そのものです。
』どうです、絶対に見たくなりますよね」
「どういう意味だ。女の成長って何なんだろう? 」
「あれって言ったら、あれしかないでしょう。ようし、クレジットでOK」
志村はクレジットカードをリーダーに通した。画面が変わり、赤ん坊の顔が映し出された。
それが徐々に成長してゆく。志村が叫んだ。
「何だよ、これ、期待させやがって。アレってのは女の顔じゃねえか。なんだよー、がっ
かりかりさせやがって。……。しかし、すごいな、これ実写じゃん」
禿げ頭のデザイナーの福田が答えた。
「いや、いくらなんでも実写なんてあり得ないよ。絶対にコンピュータグラフィックだっ
て」
志村は画面を食い入るように見詰め、頭を振った。
「いや、これは実写だ。製作者は狂人だ。同じ場所に毎日子供を固定して同じ角度から撮
っている。こいつは気違の作品だ」
桜庭も目を奪われた。どうみてもコンピューターグラフィックとは思えない。誰が何故こ
んな馬鹿げた実写を撮り続けたのか。桜庭は子供の顔が徐々に変化してゆくさまを眺めた。
日々成長してゆくのが分かる。顔の大きさも徐々に大きくなってゆく。
その顔に見入っていた桜庭は、思わず後ずさりして、
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