第三章 暗い過去
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企画書を書き
換えさせるが、既に一月が経とうとしているにもかかわらず、一向に方向が定まらない。
既に最初の企画案など跡形もなく消えうせ、山口の思い込みばかりが一人歩きしている。
そのくせ会議の後の接待では、2時3時まで馬鹿騒ぎを繰り返しているのだ。さすが
に切れそうになるのを何とか抑えて、桜庭は男芸者を演じ続けた。とはいえ、この山口も
陰に回れば演劇評論家の飯田先生に同じように努めていると思えば、社会の在り様はこん
なものかと妙に納得せざるを得ない。
桜庭は何時開放されるのか分からず、接待用のお追従笑いを浮かべてはいるものの、
苛苛と時を過ごしていた。再び携帯が震えて、しかたなく、山口先輩に一礼してバーの外
に出た。
「もしもし、桜庭です」
香子の叫ぶ声が響いた。
「助けて、お願い助けて。怖いわ、桜庭さん、早く来て」
「おい、何があったんだ。いったい何が起きた」
「奥さんが、庭のいる。刃物を持っているみたい」
「馬鹿、それならちょうど良い。すぐに警察に電話しろ」
「もうしたわ。でもパトカーがまだ来ないのよ」
「子供はどうした」
「みんなで屋根裏部屋に隠れているの」
「そう言われても、今、大事な接待の真っ最中だ。抜け出すわけにはいかない」
「だって、今、貴方の奥さんがナイフみたいな物を持って、庭をうろついているのよ。私
たち親子が殺されかけているのよ。それより、接待が大事だと言うの」
そう言われれば断るわけにはいかない。分かったと言って電話を切った。ディレクターの
望月が今夜は徹夜だと言っていたのを思い出したのだ。すぐさま会社に電話を入れた。
「おい、望月、すぐにシャンテに来てくれ。三丁目のシャンテだ。どうせ、仕事は部下に
任せて遊んでいるんだろう」
「あれ、桜庭さん。今日は山口先生の接待じゃなかったの」
「その接待中だ。お袋が急病で病院に担ぎこまれた。俺はすぐに駆けつけなければならな
い。シャンテにいる山口先輩のお守りはお前に任す。頼んだぞ。繰り返すが、山口先輩に
は、俺のお袋が緊急入院したと言うんだ、分かったな」
桜庭は、山口先輩が売れていない頃、お袋が何かと面倒をみていたのを知っている。売れ
た今では、そんなことおくびにも出さず、知らん顔を決め込んでいる。そのお袋のことを
持ち出せば、急に帰ったと知っても怒らないと踏んだのだ。
桜庭はその場でタクシーを拾った。バーに引き返せば、入院先を聞かれる。運転手に
一万円札を握らせ、狛江まで急がせた。さすがに零時を過ぎているものの、首都高に乗る
のまで思いのほか混んでおり、いらいらとして何度も時計に目をやった。
タクシーを降りると、3台のパトカーの点滅するライトが桜庭の目に飛び込んできた。
ちょうど、泉美が警官に引かれて一台のパト
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