第二章 疑惑
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は」
動揺しながら桜庭が叫んだ。
「何だと、ずるい男だって、浮気をした女房が何を言っているんだ。盗人猛々しいとはお
前のことだ」
「じゃあ、この写真は何なの」
こう言うと、泉美はバッグを引き寄せ、中から何枚かの写真を取りだした。そして、桜庭
がしたようにそれをテーブルにぶちまけた。桜庭は指で一枚の写真の向きを直し、焦点を
合わせた。そして、目を剥いて驚いた。香子とホテルに入ろうとしている写真だった。
テーブルに視線をさ迷わせるが、どれも似たような写真だ。泉美を見ると、刺すよう
な目で睨んでいる。
「私の方は過去の過ちで、もう終ってるわ。でも、貴方は、今現在、私を裏切っているの
よ。その女はいったい誰なの。今までの演技で、あんたが私と本気で離婚するつもりだっ
てことは分かった。でも、私には全くその気はないの」
「演技だって、それはどういう意味だ」
泉美は含み笑いをしていたが、徐々に声を上げ、最後には笑いころげた。気が狂ったよう
に笑っている。桜庭は苛苛しながら泉美の興奮が覚めるのを待った。ひとしきり笑うと、
泉美が冷たい視線を向けて言い放った。
「あんたはずっと前から、私に恋人がいることを知っていた。それを見て見ぬ振りをして
いた。それは、稼ぎのある私との生活を捨て切れなかったからでしょう。一銭も家に入れ
ず、遊び放題だ。それも悪くないと思っていたんでしょう」
「そんなことはない。俺はお前を愛し……いや、信頼してていた。だから」
桜庭は、せせら笑う泉美を見て、さすがに自分でも恥ずかしくなった。矛を収める時かも
しれない。桜庭は狡猾そうな笑みを浮かべながら言った。
「いやはや参った。まさか写真を撮られていたとは」
鬼のような顔になって泉美が叫んだ。
「誤魔化すんじゃない。いったい誰なんだ。この女は誰なんだ」
桜庭は、言葉に詰まった。どうやら、泉美は香子が中条の妻だったということには気付い
ていない。泉美はまるで山門に立つ仁王のように、恐ろしい形相で睨んでいる。桜庭は尋
常でないその様子に恐怖を抱いた。そして言葉が衝いて出た。
「分かった、もう、あの女とは別れる。だからもう何も言うな」
「本当なんでしょうね。もし別れなかったら、覚悟しなさい。慰謝料だけじゃないわ。こ
のマンションだって奪いとってやる」
「ああ、分かった。本当に別れるって。だから、落ち着けよ。俺は嘘は言わん」
こんなやり取りが30分も続いた。お互いに意味のない会話であることは分かっていたが、
少なくとも泉美の興奮を押さえるのには役立った。桜庭は話題を変えようと、おもねるよ
うに言葉をかけた。
「まったく中条が、死んでしまうなんて、お前もショックだっただろう」
般若のような顔が、一瞬和んで、泉美は遠い目をして答えた。
「いい
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