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怨時空
第二章 疑惑
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た。
 そして数日後電話をかけ、自宅に押しかけ、そしてなるようになった。香子は中条の
二番目の妻で、あの日は先妻が残した二人の子供と別荘へ行っていたのだという。葬式に
訪れ、二言三言言葉を交わした桜庭を覚えていて声を掛けてきたのだ。
 中条は最初の妻を31歳の時に亡くし、自殺する二年前、総務部の部下であった11
歳年下の香子と再婚した。事件後、香子は旧姓に戻り、中条の残してくれた狛江の600
坪の自宅に二人の子供と住んでいる。

 着替えをすませるとベッドに腰掛け、安らかな寝息をたてる香子の横顔を見詰めてい
た。髪を撫でると、香子が目を覚ました。桜庭が声をかけた。
「ご免、起こしたみたいだね」
「いいの、起こしてくれて良かった。そろそろ夕飯の時間だわ。一緒にお買い物に行きま
しょう。ねえ、今日は何が食べたい」
体を起し、瞳をくりくりさせて問う。
「そうだな、うーん……」
答えなどあるはずもない。家に帰る前に実家に寄って母親から小遣いをせしめなければ今
月乗り切れない。
「ねえ……」
「申し訳ない。悪いけど、そろそろ帰らないと。女房には箱根で接待ゴルフだと言ってあ
る。だから、今、ぎりぎりの時間だ」
「だってまだ早いじゃない。奥さんがそんなに怖いの?」
「いや、実家に……、実は母親が寝込んでいる。見舞ってやらないと……」
そんな言い訳など聞こえなかったように反論する。
「それとも、奥さんのところに帰りたいっていうこと?」
「そんなことない。勿論君と何時までも一緒にいたいさ。だけど、それは今のところ叶わ
ないんだ。そこを分かって欲しい」
香子の見上げる瞳が潤んでいる。今にも泣き出しそうだ。
「そんな悲しそうな顔をするなよ。俺だって仕事も接待もあるのに、週2回も機会を作っ
ているし、こうして週末だって泊まりにきている。これ以上、俺を困らせるなよ」
香子の唇が動いた。小さな声だ。桜庭は聞きとれなかった。
「今、何て言ったんだ?」
「……」
俯いたまま目を合わそうとしない。桜庭が顎に手を添え、顔を持ち上げた。涙が一筋こぼ
れて、桜庭の指を濡らした。小さな唇が開かれた。
「でも、毎日、会いたいんだもの」
こう言うと、背中を向けて肩を震わせている。桜庭は両手で香子をぎゅっと抱きしめた。
香子のしっとりとした肌が掌に吸い付く。胸がきゅんとして切なく、可愛さ、愛おしさで
胸が一杯になる。その時、女房と別れようと決意した。

 そんな或る日、一人の男が会社に桜庭を訪ねてきた。受付で顔を合わせると男は秘密
めいた微笑みを投げかけてくる。受け取った名刺を見ると近藤探偵社とある。近くの喫茶
店で話を聞くことにし連れ立って会社のビルを出た。
 店に腰を落ち着け、コーヒーを二つ注文する。探偵は、コヒーが運
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