第一章 悪友
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そんな言いがかりをつ
けて離婚しようたって、そうは問屋が卸さないわ。あんたが好き放題やっていることは、
こっちだって知っているんだ。もし離婚しようというなら、このマンションは私が貰うか
らね。いい、浮気をしているのはあんたの方なんだから」
桜庭は、この話題で深入りはしなかった。泉美の言う通りだったからだ。
しかし、或る時、桜庭の遊び相手の女が妊娠し、女房との離婚を迫られるという事態に
見舞われ、桜庭は泉美の浮気の証拠と掴むために探偵を雇った。浮気の証拠をつきつけ
離婚を有利に運び、泉美をお払い箱にしようと決心したのだ。
しかし、その調査は途中で止めさせた。というのは、その妊娠が嘘だと分かったからだ。
この時、ほっとする自分を不思議に思った。泉美との離婚は常日頃の願望ではあったが、
自由にお金が使え、遊び放題の生活にもやはり未練があったのかもしれない。
桜庭は広告代理店に勤めている。勤続15年で第一営業部の課長に抜擢された。しかし
今期は全社の売上目標未達成で、社長以下経営陣は全社員に新規開拓の大号令を発した。
桜庭の課は120%達成率であったが、決して例外というわけにはいかない。
大手企業を担当して長く、新規開拓から遠ざかっていたため、桜庭にはそれが心の重荷
だった。しかし、ワンマン社長の命令で一人最低一社がノルマとなり、ボーナスの査定の
対象になると言う。桜庭も必死にならざるを得なかったのである。
桜庭は早速大学の卒業名簿を取り寄せ、その中に、中条翔の名前を見出した。大手自動
車メーカーの総務部長の肩書きであった。桜庭はすぐさま電話番号を控えた。中条ならば
桜庭の期待に応えてくれるはずである。桜庭は思わずにんまりとした。
中条とは大学の演劇部で知り合った。互いに母一人子一人という家庭環境が近いという
こともあり、知り合って直ぐに親しくなった。或る女性を張り合って、一時険悪な関係に
なったことはあったが、四年間通じて同じ時間を共有した友人であることは間違いない。
そして、中条は、あの忘れがたい事件の主犯である。桜庭は死体を運んで遺棄したに過
ぎない。事件以来、中条とは数える程かしか会ってはいないが、あの事件のことを忘れる
はずもなく、ケツの穴の毛を残らず抜いても文句は言えないはずである。
桜庭は秘書に通された応接室でコーヒーを飲みながら旧友の面影を思い浮かべた。どう
変わっているか楽しみだった。中条の自分勝手な性格からいって出世するとは到底思えな
かったが、それが大手自動車メーカーの総務部長とは畏れ入ったと言うしかない。
秘書が笑顔を作りながら応接室に入ってきた。先客があり、しばらく時間がかかるから
と応接に案内されてから10分もたっている。
「桜庭様、お待たせ致しました
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