第一章 悪友
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庭はその形相を見てぞっとした。返す言葉
もなかった。
離婚は何度も考えた。しかし、それを思い留まらせたのは、或いは、二人が共有した深
い悲しみ、そして幸せだった頃の共通の思いに他ならないが、何よりも離婚に伴う財産分
与が大きな理由だったのである。
高層マンションの最上階。そこから眺める夜景は世界を独り占めしているような錯覚を
起させる。桜庭はそれをこよなく愛した。マンションの頭金は母親が出したが、月々のロ
ーンは泉美と折半で、離婚した場合は当然売却せざるを得ない。そのことを思うと躊躇せ
ざるを得なかったのである。
二人の生活に変化が起こったのは、流産から三年後である。泉美は結婚直後からブティ
ックを経営していたが、それまで売上はぱっとしなかった。しかし、太り出したのを機に、
店をビッグサイズ専門店に衣替えすると、お客がどっと押し寄せたのだ。
桜庭はその成功に目を見張った。そしてこれが桜庭に経済的ゆとりと、思うままの生活
をもたらせた。桜庭はサラリー全てを小遣いとして使えたし、他の営業マン以上の接待で
売り上げを伸ばすことが出来たのである。
泉美の方は、生活ぶりが派手になったとはいえ、夜は趣味の油絵に没頭しており、次々
と作品を仕上げてゆくし、休みの日にも出かけている様子はない。どうも腑に落ちず、泉
美の携帯のメール、住所録、履歴を調べてみたが、それらしい男の影もない。
しかし、男なしでは生きられない泉美のことだ、何かあると思い、よくよく調べてゆく
と、ある符合に気付いたのだ。女友達からのメール、餡蜜屋での待ち合わせの約束が入っ
た翌朝、泉美はシャワーを浴び、念入りにめかしこんで出かけるのだ。
まったく笑ってしまうのだが、蓼食う虫も好き好きとは良く言ったもので、どこでどう
知り合ったのか、泉美には恋人がいたのである。しかし、桜庭は見て見ぬを振りをするこ
とにした。或るときなど、そのことで鎌をかけたことがある。
「泉美、先週の金曜日の昼頃、ブティックに電話をいれたら、仕入れに出かけていて今日
は戻らないと言っていたが、本当に仕入れに行っていたのか」
その日は、朝、シャワーを浴び、念入りに厚化粧をする泉美の様子でデートだとぴんとき
たのだ。泉美は一瞬ひるんだが、気を取り直し、きっぱりと言った。
「当たり前じゃない、あの店は仕入れが勝負なのよ。お得意さんが何を求めてるかを見極
めて、それを問屋街で探すの。一日仕事よ。足が棒になっちゃったわ」
「しかし、仕入れの日に限って、シャワーを浴びて、厚化粧して出かけるのはどういうわ
けだ?」
桜庭が、にやにやしながら聞いたのが気にさわったらしい。泉美がむきになって言い返し
てきた。
「それってどういう意味よ。私が浮気でもしているって言うわけ。
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