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怨時空
第一章 悪友
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なかった。しかし、子供が出来
ないと知った母親がどう出るか。それを思うと暗澹たる気分に襲われたのも事実だ。
「貴方のお母様は私を憎んでいるのよ。子供の出来ない体になった私を追い出そうとして
いるわ。今日も電話してきて、流産したのは私が仕事を続けていたからだと非難したの。
でも、私は先生のアドバイスに従っていた。決して無理をしていたわけじゃないわ」
「分かっている。君に責任なんてない。それにお袋が非難したというけど、そんなことな
いって。君は言葉に過敏過ぎるんだ。いいか、俺は、君を愛している。たとえ子供が出来
なくても一緒だ。お袋が何と言おうと、この俺が守ってやる」
「本当、あなた、本当なのね」
こんなやり取りを何度重ねただろう。確かに、母親は泉美を憎み始めている。そして、嫁
姑の仲はそれまで以上に険悪になっていった。泉美の愚痴と涙が桜庭を追い詰める。二人
に挟まれ右往左往する毎日が続き、次第に泉美の涙が重荷になっていった。
 暗い顔を突き合わせて食事をしても味も素っ気もなかった。そして深いため息。初めの
うちこそ優しく慰めようという気持ちも起こったが、四六時中となるとその気も失せる。
無視することが多くなり、終いには、うんざりして憎しみさえ抱くようになった。
 或る日、帰宅すると家の中は真っ暗である。居間の電気を点けたが、誰もいない。寝室
を覗くと、部屋の隅で何かが蠢いている。びっくりして目を凝らすと、泉美がうずくまっ
て泣いているのだ。ぞっとすると同時にうんざりした。寝室のドアを思いきり閉めた。
 毎晩銀座で飲み歩き、帰りも遅くなった。憂さを晴らすために浮気にのめり込んだ。職
業がら、タレントやモデル志望の女達との接触も多く、若い肉体をむさぼった。二人は口
をきかなくなり、互いを無視するようになった。この頃、泉美の食欲が爆発したのである。
 ぶくぶくと太って、醜くなっていった。最初のうちはストレスによる過食症かとも思っ
たが、桜庭を睨みつけるようにして飯を口に詰め込んでゆく泉美を見ていて、それは少し
違うような気がしてきた。
 しかし、醜く太ることが、美意識の人一倍強い桜庭に対する復讐だと知った時は、呆れ
ると同時に慄然とした。ある日、口喧嘩をして、桜庭が怒鳴った。
「自分のその姿を鏡で映してみろ。俺に相手にされたいのなら、そのぶくぶくの体を何と
かしろ。今のお前はトドだ。声までトドそっくりだ。喉がつまったようにゲコゲコ言いや
がって、何を言っているのかさっぱり分からん」
これに対し泉美が言放ったのだ。
「あんたになんて、もう相手にされなくってもいい。もっと醜くなってやる。醜くなって
復讐してやる。あんたが悪いのよ。私を構ってくれないあんたの責任よ」
そう言って、桜庭を憎悪の眼差しで睨んだ。桜
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