第三幕その四
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第三幕その四
「そしてこの牢獄から」
「斧が」
だが。マルゲリータはまた見たのだった。
処刑の斧が自分の首に落ちて来るのをだ。それを見たのである。
それでまた怯えてだ。錯乱した声で喚く。
「私への処刑が。ここで」
「とにかく早く」
「去りましょう」
ファウストはマルゲリータの手を掴むが彼女は暴れて逃れようとする。そしてメフィストはしきりにファウストをせっついて言ってくるのだった。
「早く、急がないと」
「悪魔が出て何をするというの?」
マルゲリータはまた怯えて叫びはじめた。
「この神聖な場所で」
「馬鹿な、牢獄が神聖だと!?」
「何もかもわからなくなているのです」
メフィストがファウストに告げてきた。
「ですから」
「ではどうしたら」
「もうこれはどうしようもありません」
首を横に振っての言葉である。
「ですから二人で」
「夜明けが」
牢獄の中も少しずつ明るくなってきた。それが何よりの証であった。
「薄明かりが。これが最後の一日なのね」
「違う、これからなんだ」
「私達の輝かしいはじまりの日になる筈だったのに。この世では」
「何故こうなるのだ」
「私を愛してくれて」
苦しむ顔のファウストに対しての言葉だ。
「どうかそれを」
「それを?」
「覚えておいて。私が貴方に心を捧げたことを」
「わかった、じゃあ」
「そして神よ」
今度は上を見上げての言葉であった。
「私をお許し下さい。どうかこの私を」
「もう終わりだ」
メフィストはその彼女を見て呟いた。
「間も無く命が消える」
「何故だ、何故こうなるのだ」
「御覧下さい」
メフィストがマルゲリータを指し示すとだった。彼女はゆっくりと崩れ落ちた。そうしてそのうえで弱々しい声で一人呟いたのであった。
「これで私は」
「そう、救われた」
「彼女は救われたのだ」
天上から声がした。天使達の声である。
「神は許された」
「この気の毒な娘を」
「そうなのか」
ファウストは崩れ落ちたマルゲリータを見ながら呟いていた。
「それがせめてもの救いか」
「では博士」
メフィストは呆然となっている彼に告げてきた。
「これで」
「去るというのか」
「はい、では」
二人はすぐに姿を消した。後に残ったのはマルゲリータだけである。崩れ落ちた彼女の亡骸を何処からか出て来た白い光が照らしていた。その天使達の光が。
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