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番外編:或る飛龍の物語
或る飛龍の物語《1》
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 茅場、という名字を聞いたことがない人は、多分いない。

 かの天才ゲームプログラマーにして、VRMMOの創造者。そしてSAO事件の首謀者――――――

 数えればいくつもの肩書きを持つ天才、茅場晶彦の名字だからだ。


 京崎秋也は、かつて《茅場》の名字をもっていた。しかし父母の離婚と同時に京崎の名字を得た。

 心の中で、いつか自分よりもはるか高みにいる兄の力になってみたいと思っていた。彼に頼られたいと思っていた。

 
 それが、結果として仲間たちを裏切る行為だとしても。


 兄が世界初のVRMMOを開発し、秋也は兄本人からβテスターの権利を与えられた。

 夢のような二か月間が過ぎ去り、SAOのβテストが終了したその日に、兄は……茅場晶彦は、直々に秋也を呼び出して、言った。


 ―――――私はこの世界を本物にしたい。

  
 
 秋也が長年のカンで得た答え。『現実(リアル)』に必要な最大の条件。即ち―――――『生』と、『死』。

 秋也は兄がSAOに全プレイヤーを監禁し、クリアするまで脱出不可能、HPが0になれば死亡するデスゲームへと変化させるつもりであることを知った。


 ―――――今すぐ私を通報してもいい。どうする、秋也。 


 しかし兄は、何もかも見透かしたようにそう言ったのだ。そう―――――秋也が、兄を手伝いたい、彼を支えたいと思っていることに気付いていた。


 秋也は恐らくプレイヤー中唯一全てを知っていた。SAOシステムの全貌、兄の用意したシナリオ。誰も読めない、どんな天才すらも予測できない全てを。


 こうして秋也――――ハザードは、もう一人のGMとでもいうべき存在となった。兄――――ヒースクリフからたびたび送られてくるメッセージ。そこに記された指令をこなせば、彼はハザードをほめてくれた。よくやった、と。

 
 巨大ギルドのリーダーとなった彼の代わりに、GMの仕事を代行したこともあった。



 そして―――――あの日。SAO最後の日に、兄が自らの正体を公にした日。秋也は仲間をすべて裏切って、彼を手伝った。

 邪魔をするプレイヤーを切り捨て、生涯の親友達を殺そうとして―――――


 だけど。

 親友達は――――セモンは。シャノンは。自分を許した。裏切ったのに。自分が満足するためだけの裏切りを、笑って許したのだ。



 だから秋也は、再びALOという枷にとらわれたとき、彼らが自らを開放した時、単身世界樹に乗り込んだ。

 皆をすくうために。

 皆に恩返しをするために。


 そこで秋也は、自らの追いかけてきた兄と再会した。いや――――正確には、兄の幻影、彼風に言えば残像と。

 茅場晶彦
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