黄巾の章
第18話 「……心配なのですよ、貴方のことが」
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それにしてもうまいこと逃げられたもんだぜ。
あの袁術なんていうバカ諸侯ならどうとでもなったんだが……音に聞こえた官軍の張遼じゃどうにもなんねえ。
しかも袁術はいなくなって、その唯一の強敵だった孫策軍が残って官軍と合流されたんじゃ、俺たちなんぞすぐに殲滅されちまう。
だから袁術が移動したすぐなら、向こうもまだ油断していると思ったんだが……これが大当たりだったぜ。
その上、逃げる途中に一人で天幕からのろのろと出てきたこの女。
こいつの身なりからしても、都から派遣された侍女かなんかだろうが……そこそこ身分のある女のようだ。
なら人質として使えるだろうと拾ってきたんだが……すぐにぐったりとして気絶しやがった。
まあ騒がないし、おとなしいならばちょうどいい。
さて……このまま行き過ぎると、袁術軍がいるかもしんねえな。
ここら辺で東か西に進路変えるか……西は長安。董卓の本拠地……まずいか。
それに……確か東に潁川黄巾軍の波才がいたな。
そこまで逃げ込めば……
となると……
「おい、お前ら。ちっと考えがある」
さて、このバカども……俺のために死んでもらうか。
俺はその隙に逃げさせてもらうぜ!
―― 盾二 side ――
俺は一人、闇夜を駆けていた。
空には煌々とした月明かりがあるとはいえ、今は夜。
なるべく岩陰や、斜面を利用しながら前方の松明を見失わないように疾走いる。
この闇夜で一人、松明もなしに馬で走るのは自殺行為だ。
だが、松明を使えば相手にこちらの場所と数を教えるようなもの。
だから、俺は馬から下りて自分の足で走っている。
前方に見える集団の松明の数からして、相手は少なくとも三千。
さすがの俺でも、一人でどうこうできる数ではない。
だが、俺はスプリガンだ。
……候補生だが。
まともに正面からではなく、潜入・工作としてスニーキングで人質を助け出せばいい。
(問題は場所だ。いったいどこに桃香がいるのか……)
三千の集団に紛れ込むにも、相手は馬での移動中。
この闇夜で思うように行軍速度が上がっていないために、徒歩で追いついたが……
(せめて銃火器があればなんとかなったが……今の手持ちはオリハルコンナイフひとつか。サイコブローがあるとはいえ……乱発すればすぐに尽きちまう。さて、どうするか……)
そう考えていると……前方の松明がゆらゆらと揺れだした。
(……?)
俺は近くの岩陰に身を隠し、松明がゆれる前方に目を凝らす。
しばらく足を止めて、なにかの指示が飛んでいる……チャンスか?
いや……こんな荒野の真ん中じゃ、近づいたとしても
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