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弱者の足掻き
十二話 「蟲」
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た。本来ならその先には、海が見えていたはずだが、今は見えない。ああ、そう言えば確か近くで喧嘩か何か知らないが事件が起きたらしいとか。誰か死んだとか死なないとか。物騒なことだ。曇り空というのはロクなことを思い出さないな。
 ぼおっとそれを眺めながら、隣に来た白に言う。

「行くか。文句を言われてもかなわん」
「はい」







 三回。
 これは盗賊を襲った回数。
 あの日だけでなく、それからも二回。情報を貰い、襲って殺した。最初の一回とは違い、盗む過程で人を殺しまではしていない奴らであろうと構わず襲った。二回目、三回目は一人も逃しはしなかった。

 毒を盛り、仲間に化け、罠を張った。
 術の威力を知る為の的にした。
 どれだけ血を流せば死ぬか。その実験台にした。
 関節の外し方。骨の折り方。血管のある場所、止血の方法を練習した。
 白に針を打たせ、どこに打てばどこが麻痺をするのかも練習させた。

 トライ&エラー。
 神経の通う場所、その切り方。どこが動かなくなるか。
 毒の服用方法。その適量と致死量。複合薬の効果。
 十分なだけの穴の大きさ。血の落とし方。
 悲鳴の……悲鳴を消す方法。

 練習すればするだけ、経験値を貯めれば貯めるだけレベルが上がるのが理解できた。
 繰り返すたび、心が切り離されるのも分かった。俯瞰風景が如く遠くの上空から自分を見下ろしプレイアブルなキャラを動かす様な錯覚さえも覚え始めた。心と動作の分離。それが顕著になっていった。

 盗賊の持っていた、盗んだ宝があれば貰った。個人が特定されるような物やいくつかの物は「落し物」として返しに行った。涙を流して感謝され、恩という繋がりを持てた。

 その度に、頭の中の虫は育っていった。









「おい、大丈夫かよイツキ」

 心配そうなカジ少年の目が俺を見る。それに「大丈夫だ」と笑って返す。
 珍しくいつもとは違う、街の外れでの集まり。何をするのかさえ決めていないのに集められるのはいつものことだ。けれど、周りの視線が自分の方に向くのに少し、気が重くなる。

「なんかなー。あの家出の日から元気ないよな。何あったんだよほんと」
「何もなかったよ。気のせいだ。俺はいつも通りだ」
「いつもそれだよな。確かにどこが変かって言われれば言いづらいけどさ」
「だろ? そりゃ、何も変じゃないからな」

 おどけたように肩を竦める。そんな俺を納得がいかなそうにカジ少年は眉を潜めて見る。
 子どもの心は鋭いというが、どこか第六感的なところがあるのだろう。それとも俺の演技が下手なのかもしれないが、友人たちはどこか違和感を確かに感じている。それに家出は一度では終わらなかった。三度あったのだ、何か思う
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