十二話 「蟲」
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イツキ君は何か知っているの?」
「何も知らない。知らないんだ。おかしいことは自分でも理解している。でも頼む。夢を叶えたかったら、この国を離れてくれ」
何が起こるのかなど言うわけにはいかない。知っている事もだ。けれど、それでも、この程度なら。きっと許されるだろうと、許されて欲しいと、誰に願うのかすらわからずに俺は願う。
分かっている。こんなの戯言だと。所詮子供の言うことで大人は気にもとめない。国を出る決意など、大人はしやしないと。いくら言っても意味なんてないって。
けれど、もしかしたら気が変わるかもしれない。そんな奇跡のような幸運を俺は願う。
そしてこの瞬間も今だけだ。見捨てればいいのにリスクを背負う。普段なら絶対にしない、自分でも自分がおかしいと自覚できる今だからこそ。きっと、明日には何もなかったように口を噤むだろう。見捨てるだろう。
「……うんわかった。お母さんたちに言ってみる。じゃあね、今日はありがとう。ちゃんと暖かくして寝なきゃダメだよ?」
「分かってるよ。じゃあなチサト」
「うん。バイバイ、イツキ君」
大きく手を振る背中を、俺は見送った。
――■■■……
――■■■■■……ッ
――■■■■■■■……ッ!!!
「ッ……あ。ぃて、ぇ……が」
街の喧騒も聞こえないほどに頭の痛みは増していた。脳を揺らすガンガンとした音が、虫の声が絶えず響き渡り神経をそぎ落としていく。
ズリズリ、ズリズリと足は完全に引きずっていた。もう、持ち上げられるだけの力もなかった。
手を持ち上げるだけの力すら入らない。視界も歪みホワイトアウトし、いくらか歩く毎に休みをいれ視界を確認するザマだ。亡者のように、少しずつ俺は足を進めていく。
「っ、はあ、はぁ……はぁ……ぁ」
体も寒い。服は着ているはずなのに一向に暖かさを感じられない。内側から凍るように、あの落ちた水の世界に熱を奪われたように凍えが体を貫く。心と体を水面の下に忘れ今ももがいている錯覚さえ感じる。
だが、もうすぐだ。ブレる視界の先、家の姿を既に捉えている。あと、少し。
辛い現状から逃げるように頭はつらつらと色々なことを考え始める。今日あったこと、これからのこと、今までのこと。
あいつらはきっと大丈夫だし、これからも問題なく接することが出来る。何事もなかったように日々を過ごせばいい。
だから思うのは白のこと。一体どうすればいいのだ。切り替えていた心は、目を背けていた半分は、既に気づいてしまった。スイッチはもう意味がない。実感としてこの身に降りかかり、既に重なってしまった。
何事もなくなど、無理だ。
考えれば考えるほどに頭痛と音は増していくのに、それでも考えは止まらず回り続ける。
やっとた
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