十二話 「蟲」
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むことはあった。どういう条件で痛むのかも分かっていたし、暫くすれば収まるものだった。だが今回のこれは収まることがない。痛み自体は小さくなることはあっても、頭の奥の方でジクジクと小さな鈍痛が収まらない。小さな虫が脳の中に巣食い、絶えず金切り声を上げている。それが、心を静かに削いでいくのだ。
理由はわかっている。止め方も分かっている。けれど、脳の中の虫がそれを許さない。
脳を食い、体を食い、中身がドロドロに溶けた肉の皮袋にでもされたようだ。
その虫は人の姿をしている。その声は怨嗟の声。赤子の用な金切り声。背丈は酷く幼い。
ずっと昔、俺が生まれてすぐ。その時からあった卵。時間を餌に、それが孵化した姿。
心をよこせと、体をよこせと、キィキィと泣いている。
その虫が、どうしても掴めないのだ。
心の臓腑をくれてやれば気が済むのだろう。だが、気づくには遅すぎた。生きると誓い、また自分で卵を植えつけてしまった。それを破れば、きっと、蟲が増えるだけだ。今度こそ逃げられなくなる。
目を背けている間に背負ったもの、者。自分を生きがいにさせてしまった存在。自分がねじ曲げた少女|(はく)もいる。逃げ出すことなど、どうやったら出来るというのか。自分が死んでもう一度放り出すなど、既に出来る訳が無い。
カチッ。小さく音が鳴った。目を動かした先、時計の短針が先程までより一つ次の数を指していた。
今この体を動かすのはやらねばならぬという責務感。俺は体にムチをいれ起き上がる。それに合わせるように白もパタンと本を閉じる。
今日はこれからカジ少年たちと遊ぶ約束なのだ。出来るなら、彼らに早く会いたかった。何かしていたほうが気が紛れる。……いや、何かした気になれる、からか。僅かでさえ誤魔化せない自分の心につい哂ってしまう。
「疲れているようですが、体は大丈夫ですかイツキさん?」
「大丈夫だ。動く分には問題ない」
多分、だがな。
そう思った時、視線の先、立ち上がった白の手が一瞬腹部を抑える様に動く。それと僅かに潜めた眉も。次の瞬間には何事もないように戻っていたが、どこか悪いのだろうか。
「そっちこそ大丈夫か。悪いなら言え」
「いえ、問題はありません。大丈夫ですので気にしないでください」
嘘、だろう多分。喋る間に白は瞬きをしなかった。終わってから瞬きをゆっくりと二回。今までの付き合いで気づいた癖だ。他にもいくつか、本当に注意しなければわからないレベルでの癖もある。
何もない、ではなく、問題ない。だが大丈夫だと言う以上聞くべきでもない、はずだ。
結局、どっちもどっち。寧ろ気を使われているだけこちらがそれほど不安定に見えるのか。
まあ、いいや。どうでも。
窓から見た外。遠くでは微かに霧が掛かってい
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