十二話 「蟲」
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目を開けた先、目の前にあるのは広い水たまり。石を構えて、水面に投げる。
空にかかるのは月。この世界で一度として満ちたことのないそれが天から見下ろし、水たまりの中心にその姿を鏡のごとく写している。
浅瀬で足を濡らし、拾った石を合わせ鏡の月へと必死で投げる。
何度も、何度も、何度も。
生まれる波紋が、飛び散る飛沫が、その鏡月を揺らす。
水は止まっていない。濁っていない。澱んでいないのだと、確かめるように、自分でそれを壊すように、何度も投げる。
鏡月の歪みに心が安らぎ、止水に恐怖する。
だから、石(異物)を投げるのだ。その意味を忘れてもなお、無意味さに気づいてもなお。
だから、気づかないのだ。異物は異物でしかないことに。飲み込まれることなど、ないことに。
投げ入れた石が積み重なることを。見えぬ鏡の下、水面が割られる。姿見のそれが歪みを見せつける。
水は埋まり、異物(石)が顔を出す。
寝転がり見上げる天井。何もないのは分かっているが、そのままなんとはなしに俺は見続けていた。
既に冬に入りかけの日だ。段々と寒くなってはきているが、昼の時間帯であることもありそこまで寒いわけではない。
片手は頭、もう片方は床。床に下ろした手には何度も読み返した親のアカデミー時代の忍術教本。寝て読んでいたが、腕か疲れたのだ。起きればいいのだが、それをする気にもなれない。ただただ、天井でゆらゆら揺れる電球を見つめ続ける。
昼も大分過ぎたというのに自堕落なのは自分でもわかっている。だが、何もする気が起きないのだ。
顔を横に向けた先、部屋の隅で白が本を読んでいる。さきほど見た時とは違う本。無地の背表紙だが色と草臥れから察するに毒の本だろう。さきほどは体術の本だった。自分と違うその真面目さに俺はぼーっとそれを見つめる。
あの日、初めて自分の意志で人を殺した日。あの日以来白は前よりも前向きに、貪欲に知識を集め始めた。知識だけではない。体術や武器術、チャクラ操作、術。それら全てに対してだ。今まで通りだけでなく、自分で考え、時間を作り、身に修め始めた。
理由は、察しがつく。それは俺の利になるモノのはず。だから、何も言わない。やっと白が好きに動き始めたのだ。凡人は凡人、天才は天才。下手に口を挟んでも良いことなどない。挟める度胸も、今の俺にはない。
視線を天井に戻して頭を抑え、俺はため息をついて頭を抑える。
頭が、痛い。
あの日以来、逆に俺はあまり積極的に動かなくなっていった。従来通りの鍛錬はしている。だが、それ以外に動く気が起きないのだ。それの大部分はきっと、痛み続けている頭が原因だろう。
今までもたまにだが痛
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