第八章 望郷の小夜曲
第四話 ハーフエルフの少女
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何時も何時も大きな屋敷の中で暮らしていました。……でも、そんなに辛くはありませんでした。たまにやって来る父は優しかったですし、母とずっと一緒にいられましたから。母はわたしに色々なことを教えてくれました。楽器の弾き方、文字の読み書き、色々な物語や歌……でも、そんな生活もずっとは続かなかった」
ティファニアが月を見上げる顔を、隣に座る士郎に向ける。その瞳は微かに揺らいでいた。
「バレてしまったの。秘密にしていた母の存在が……父の兄である王に。王弟であり、王家の財宝を管理する財務監督官という高い地位を持つ父が、エルフを囲っているなんて世間に知られれば、一体どれだけの混乱が起きるか……でも、父は家来にわたし達を託し、母とわたしを守ろうとしてくれた。でも……王様は父を投獄すると、あらゆる手を使いわたし達を探し出しました」
ティファニアの瞳が潤み、溢れた雫が目の端から零れ落ちる。
流れる涙に気付いたティファニアが、恥ずかしそうに目を伏せると、士郎の身体に頭を寄せた。
「あの時のことは、今でもよく覚えています。王さまの兵隊たちが、わたし達の隠れていた家にやって来たのは降臨祭の前日でした。父の家来の貴族の方は、何とかわたし達を助けようとしてくれたんですが、余りにも多勢に無勢でした。母はわたしをクローゼットに隠すと、一人で部屋に入ってきた兵士たちの前に立ち塞がりました」
所々つっかえながらも話を続けていたティファニアの声が、唐突に途切れた。
士郎は隣に座るティファニアに顔を向けず、空を見上げる。
雲一つなく晴れ渡る夜の空は、目が細まる程に眩しい。
肩にかかるティファニアの頭が細かく震えているのを、士郎は感じてはいたが、何も口にすることはなく。ただ、震えるティファニアの手を包むように、優しく握るだけだった。
暫くの間、風が枝葉をそよがせる音だけが二人の耳を撫でる時が過ぎる。
「…………何も抵抗はしない……争いを望まない……母は兵士たちにそう訴えましたが、返ってきたのは魔法でした。母の身体を魔法が貫く音を……わたしはクローゼットの中で、父から貰った杖を握り、ただ……震えながら……聞いてるだけしか出来ませんでした…………」
何時の間にか、ティファニアは士郎の手を握り返していた。指が食い込むほど握り締められた士郎の手は、浅黒い肌が青白く見える程で、ティファニアの真珠のような爪も、肌に突き立っている。鋭い痛みが走っている筈であるが、士郎の顔に変化はない。
「母を殺した兵士たちは、直ぐにクローゼットにわたしが隠れていることに気付きました。ただ震えるだけしか出来ないわたしの目の前で扉が開くと、そこには母の血に濡れる兵士たちが…………でも、わたしは殺されはしませんでした」
「……誰か、助けてくれたのか」
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