第一章 グレンダン編
道化師は手の中で踊る
食べられて、キスされて、殴って
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か無くなってたんだよ」
「まぁ、あなたには足枷にすらならないんでしょうね」
「……俺は人間止めたつもりはねえぞ」
さすがのシキも、片腕がなくなっていつも通りの戦闘が出来るはずがない。
「あら? あなた自分が人間だと思ってるの?」
その少女の一言に、シキはハッとしたような表情をする。
そんな表情を見て、何を思ったのか少女の笑みはさらに深くなる。
「本当に思っていたのね。この時のあなたはなんてお気楽な思考をしてるのかしら」
「うるさい」
「いい気味だわ、存分に悔しがりなさい」
シキは目の前の少女を睨みつける。
ここまで言われて不快にならないわけがない。それが初対面の人間ならなおさらだ。
そんな時、少女は真剣な表情をしてシキに語りかけた。
「そろそろ起きなさい、シキ」
「……どうやればいいんだよ」
シキは頭を掻きながら、少女に向けて質問する。
「自分で考えなさい」
「お前、本当に嫌な奴だな」
「ありがとう、褒め言葉よ」
シキの精一杯の嫌味は軽く流された。
「安心しなさい、あなたはこれから地獄すら生ぬるい経験をするんだから」
「俺が何をしたって言うんだよ」
「した、というよりもしてしまったが正し……あら、もう時間ね」
そんな言葉を言って、少女の身体が薄くなっていく。
「残念ね、わたしがもう少し力があればもっと弄ってあげたかったのに」
「そうかい、二度と会わないことを祈るよ」
少女は消えそうな身体を動かして、シキに近づく。
「わたしが誰か知りたい?」
「……あぁ」
正直言って気になる、というのがシキの感想だ。
なぜだか、この少女を知ればこの前の顔のことも知れるかもと言った、漠然な考えがシキの脳裏をかすめた。
「そう」
そう言って、少女はくすりと笑いながら、シキの唇と自分の唇を重ね合わせた。
「!?!?!!!?」
頭の中が真っ白になった。
熱いとか、気持ちいいとか、柔らかいとか様々な感触がシキを襲う。
そしてたっぷり十秒ほど合わせたところで少女が息を吐きながら、シキの唇から離れる。
「ツェルニ、よ」
「あ、あぁ」
パクパクと口を開きながら、茫然自失になるシキを尻目に少女は話しかける。
ギュッと腕でシキの頭を抱えながら言うので、その姿は年の差のカップルのように見える。ただし、少女は足の先から太ももから消えているので、幽霊のように見えてしまう。
「わたしを知りたいならツェルニに来なさい」
「……」
「失って、失って失って失い続けて、ボロ雑巾になるくらいまで失いなさい。その時……」
――わたしだけのものにしてあげる。
そう言って、少女は完全に消えた。
「……なんだよ、なんなんだよ」
唇を摩りながら、シキは少女との会話を思い出す。
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