第一章 グレンダン編
道化師は手の中で踊る
食べられて、キスされて、殴って
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だが」
この前、とはシキが顔のようなものに取り込まれかけたことだ。
あの時もそうだったが、夢なのか現実なのか曖昧な感触がシキの身体に残る。
が、シキはどうにかなるだろうと楽観的な考えをしていた。
元々、レイフォンとの戦いで死んだと思っていたのだ。夢なのか、現実なのかわからないが生きているならどうにかなる。
「ん?」
身体を動かしていく内に、シキはあるものが無いことに気づく。
左腕が無いのだ。おかげで体のバランスを取るのが意外と難しい。
「あれ? 無かったっけ?」
それだけだった。
普通ならもっと取り乱して泣き叫ぶような場面だろうが、シキの場合は「あぁ、無くなったのか」程度にしか思っていない。
顔に取り込まれるなんて奇妙奇天烈な現象に立ち会ったのだ。大抵のことには驚かない自信がある。
「まっ、いっか」
「あら、意外と落ち着いているのね」
そこに女の声が混じった。
シキは目を見開いて驚く。気を抜いたはずはなかったのだが、女の声はシキのすぐ後ろから聞こえたのだ。
随分とぬるくなったな、と思いながらシキは後ろを振り向き、めんどくさそうに息を吐いた。
そこには闇という文字を体現した少女がいた。
美しさ、という点ではシキが見てきた中では一番になるのではないかというほどの美貌の持ち主であり、身体からにじみ出る妖艶さはどんな男すら魅了するほどであった。
だが、それまでだ。
「本当にそっくりね。憎らしいほどにね、シキ」
「俺を知ってるのか?」
少女は笑みを浮かべながら首を縦に振る。
「ええ、よく知ってるわ。でも、今のあなたは何も知らない、知っていない」
「……えっと?」
「ふふ、存分に悩みなさい。その表情は最高よ」
シキは直感的に答えを出した。
――あぁ、最高に面倒な奴に出会った、と。
「その顔は何。こんな美女がいるのよ? 少しは嬉しそうにしたら?」
「……」
ため息を吐きながら、シキはここからどうやって逃げ出そうか算段を立てる。
普通に走っても無駄だろう。
少女を殴るのもダメ、というかそうしたらダメと本能が最大級のサイレンを鳴らしていた。
残る手は剄による力任せの破壊なのだが……。
(駄目だ、剄が練れない)
やはり、剄が練れずにいた。
まぁ、練ってどうするという話なのだが、練ってから考えるのがシキである。
「いいわ、答えないないのならそれでも」
「……というか、あんた誰?」
シキは諦めて、少女との会話をすることにした。
暇つぶしにはなるのだろうと。
「答えないわ。そっちのほうが面白そうだし」
「さいですか」
暴君という言葉よりもワガママな姫という言葉が似合いそうな少女であった。
「あらあら、腕が無くなって滑稽なことね」
「いつの間に
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