第一幕その七
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第一幕その七
「あれが私の店えす」
「ああ、あそこですか」
伯爵はそれを聞いてまた述べた。
「あそこなら知ってますよ」
「そうなのですか」
「はい、とても」
そしてこうも言うのだった。
「知ってます。いや、懐かしい」
「懐かしい?」
「今この方は懐かしいって仰ったな」
「ええ、間違いなく」
村人達は今の彼の言葉を聞いて顔を見合わせて言い合った。
そして伯爵は周りを見回して。満足した面持ちで言うのであった。
「水車も泉も森も。畑も何もかもが懐かしい」
「やっぱりよく御存知の様だ」
「この村のことを」
「そうね」
「快い風景に楽しく明るい場所」
伯爵の表情も満ち足りたものになってきている。
「私は子供の頃はここにいたんだ」
「そうだったのですか」
「ここに」
「そうだった」
供の者達にも話した。
「懐かしい場所だ。そして懐かしい時だったよ」
「それはまた」
「よいことですね」
「うん。ところで」
ここで伯爵は話を変えてきたのだった。
「今日のことですが」
「あっ、はい」
「何でしょうか」
「私の記憶が間違っていなければ」
こう村人達に話すのである。
「今日は確かお祝いごとがあったと思うのですが」
「ええ、今日はですね」
「結婚式でして」
「そうですね。確かに」
ここで村人達の華やかな服を見る。そしてその彼等がアミーナを指し示して言うのであった。
「それでですね」
「今日は」
「結婚式ですな」
伯爵はそれを見てすぐに察した。
「それを今からなのですか」
「はい、そうです」
「この娘がです」
「ふむ」
伯爵はまずアミーナを一瞥した。そうしてそのうえで言うのだった。
「これはまた」
「どうされました?」
「素晴らしい娘さんですね」
彼女をこう評したのである。
「これはまた」
「そうですか」
「それ程までに」
「優しくて愛嬌のある方ですね」
彼女の顔を見て話したのである。
「とても美しい。そうした方を見て今私はとても満足しています」
「そうなのですか」
「はい、とても」
アミーナ本人に対しても満面の笑顔で述べる。
「私はですね」
「どうされたのですか?」
「以前貴女と同じだけ素晴らしい方と出会っています」
「その方とは?」
「私の若い時の話です」
またこう評したのだった。
「全くです」
「それでなのですが」
今度はアミーナが彼に尋ねてきた。
「貴方はこの村のことをよく御存知なのですか?」
「はい、そうです」
彼は温厚な笑みを浮かべて彼女の問いに頷いてみせた。
「その通りです」
「そうなのですか」
「そうしてです」
伯爵はその言葉をさらに続ける。
「城の主と共にいたのです」
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