Episode 4 根菜戦争
嵐の前の静かなる朝食
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だろう。
だが、それにしては何かキシリアの様子が変なのだ。
いつもの様に沸々とした怒りではなく、何か深い嘆きと憤りを帯びたような……
「あぁ……実は焼畑農業ってのは、持続性が無いんだよ」
「持続性?」
首をかしげるクリストハルトに、キシリアは言葉が足りない事を感じて静かに補足を口にした。
「そうだ。 なぁ、森を焼いた後に作物を作って、そのあとその地面に蓄えられた栄養はどうなると思う?」
「……あ」
そう、供給のない資源はいつか枯れてしまうのだ。
そして、それは砂漠化へとつながる破滅の一歩。
「自然の摂理が枯れ果てた大地を森に戻すのは、少なくとも十年、いや植生の種類しだいではヘタをすると百年近い時間が必要になるだろう」
そもそも、焼畑農業は植物の成長のサイクルが激しい熱帯や亜熱帯地方に適した農法である。
どちらかといえば土壌豊かで冷涼なビェンスノウ近辺にはむいていない方法なのだ。
「で、土地が痩せて作物が育たなくなったら、農作物を作っていた奴らは何をすると思う?」
キシリアの問いかけに、その場の全員が薄ら寒いものを感じて黙り込んだ。
答えは簡単。
"彼等には、新しく焼き払う森が必要になる"という事だ。
「それは……戦争になるな。 納得した」
クリストハルトが全員の意見を代返するように、口を歪めて結論を吐き捨てた。
なるほど、これはキシリアが荒れるわけだ。
「だが、これはそもそもおかしな話なんだ。 本来この世界には農作物や畜産物を育てるという文化がほとんど無い。 例外は医熊人達の薬草園や、蜂人のコロニー、あとは牛魔族のハーレムぐらいのものだろう」
そこでキシリアは問いかける。
――なのに、なぜここにきていきなり農業を始めた?
そう、彼等が勝手に焼き畑農業を開発したと考えるのは、あまりにも不自然な話だった。
しかも、教えたのは余計な火種しか生まない、不適切な方法だ。
「つまり……誰かが農業を教えたってこと?」
「正解だ、カリーナ」
この異変の背後には、何らかの作為的なものがある。
むしろある程度の知識があれば、そう考えざるを得ないぐらいあからさまな行為だった。
「んで、農業を教えたやつはわからんとして、農業を始めたのはどこのどいつだニャ?」
「……それがな、猪人らしい」
キシリアのその台詞は、さらなる驚愕をもって迎えられた。
「んな、馬鹿な。 あいつらがそんな文化的なことをするなんて、天地がさかさまになってもありえんぞ」
「だからこそおかしい……そういうことだニャ?」
猪人という生き物は、よく言えば豪放磊落。
悪く言えば考え無しで猪突猛進。
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