最終章
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駄にしたくないからな。」
「ああ、その通りだ。」
「しかし、あの本部のバンが突然爆発炎上したのには驚いた。韮沢に聞いたんだが、車に自爆装置がしかけてあって、それが誤作動を起こしたらしい。」
「ああ、和代がやったとしか思えん。」
榊原は困惑顔で曖昧に頷いた。しかし、何かを考えているようだったが、厳しい表情で口を開いた。
「ワシはそうは思わん。和代さんは、復讐とかそんな汚い言葉とは無縁な、清らかな所にいる。ワシはそう信じている。」
「おいおい、どうしたんだ。理性で割り切る男が趣旨変えしたみたいだな。」
「お前だ。お前は、ああなることを望まなかったか?」
石田は黙って友の顔を見詰めた。
「お前の憎悪は半端じゃなかった。それをいつも聞かされてぞっとしたものだ。その憎悪と執着が事件を引き寄せ、最後の結末、奴等にとっては最も悲惨な死をもたらした。」
石田が、重い口を開いた。
「ああ、確かに、あのバンが爆発炎上することを願った。走り去るバンを見詰めてそう念じた。それが原因だとでも?まさか…」
榊原は押し黙ったままだ。外では降るような蝉時雨が聞こえる。残り少なくなった命を惜しむかのように必死の鳴き声を響かせている。
親父さんが、眠りから覚め、石田の顔を見ていた。二人の会話を聞いていたのかもしれない。そして声を掛けてきた。
「石田さん、あんた、良い顔になったよ。以前とは全然違う。」
「そうですか、自分ではわかりませんが。」
「あんたいつか言っていただろう。自分は不幸にばかり見まわれるって。それはその顔に原因があったんだ。その顔を形作っていたのは憎しみなんだ。」
「和代が殺されたことですね。」
「そうだ。ワシは何人もの犯罪者を見てきた。共通して言えることは、憎しみや恨みが顔に出ていることだ。それが災いを招くんだ。災いを引き寄せるんだ。だから、犯罪者はみな不運な連中だ。これ本当のことなんだよ。」
「仰る通りなのかもしれません。何となく分かる気がします。」
「ワシもしつこく言わんが、これはワシが一生をかけて掴んだ唯一の真実だ。心の片隅にでも仕舞っておいてくれ。」
「分かりました。そうさせて頂きます。」
その時、胸の携帯が鳴り響いた。驚いて榊原が振り向いて、胸を凝視している。親父さんもじっと見詰めている。胸の携帯は、和代から掛かってきたそれだった。
事件の最中、使うことはなかったが、もしかしたら和代から再び掛かってくるかもしれないと充電をかかさなかったのだ。二人はそのことを知っている。今それが音をたてて震えている。三人は見詰め合った。
榊原がどもりなが言った。
「ど、ど、どうせ、ま、ま、間違い電話だ。」
冷静な顔を取り繕うが既に恐怖で歪んでいる。父親ににじり寄る。石田はポケ
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