最終章
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警部、韮沢一課長のそのお言葉、一生忘れません。心から尊敬申し上げます。」
「いや、そう尊敬されても困るんだが。」
そう言う韮沢の声を聞いて、石田は苦笑いをしながら携帯のスイッチを切った。
警邏体長、篠塚は、マイクを車に戻すと、ゆっくりと二人に歩み寄った。そしてその前に立つと腰の手錠を取り出し、しっかりとした声で言った。
「パクサンスイ。お前を逮捕する。」
見る見るうちに、高嶋の顔から血の気が引くのが分かった。石川警部がへたり込んだ。高嶋は押し黙って、顔を歪めた。口を何度も何度も蠢かせている。篠塚はその顔が奇妙に歪んで、いつしか苦痛のそれに変わるのをただ見ていただけだ。
高嶋がいきなり口から一本の白い歯の残骸とともに血反吐を吐き出した。そしてゆっくりと後ろに倒れてゆく。篠塚はようやく何が起きたのか理解した。偽歯に埋め込まれた毒を飲んだのだ。
「救急車、救急車だ。急げ。」
警官達が銃を構えながらゆっくりと包囲の輪を狭め二人を取り囲む。榊原も近付き覗き込んだ。高嶋は目を剥いて仰向けに倒れている。石川は呆然として座り込んだままだ。ふと人の影が視界を横切った。見ると、石田が通りの方に歩いてゆく。
石田の視線は黒のバンの行方を追っている。パトカー三台がそれを追尾する。バンは尻を振ってパトカーをなぎ倒し振り切ろうとする。石田はじっとそのバンを見詰めていた。その後姿を榊原が注視する。
よく肥えた中年女性が甲斐甲斐しく動き回っている。榊原の奥さんとは結婚式以来だが、その変わり様に驚かされた。奥さんは、よく笑い、よく喋った。それに引き換え、榊原は魂の抜け殻みたいにぼーっとしている。
小野寺夫妻はもう一度やり直すことになった。小野寺の出所を待つと言う。晴美の説得が効を奏したようだ。石田はぼんやり病院の庭を眺める榊原の横顔を盗み見た。榊原は思い出したように溜息をつく。幸子に捨てられたのだ。
その空しさ、寂しさは一人で耐えるしかない。物悲しげな視線が外をさ迷う。石田は心の中で意地悪く友に語りかけた。諦めろ、榊原。女は常に現実的だ。家庭を守ることが一番なんだ。石田は友を現実に引き戻すべく話しかけた。
「駒田はどうなった。」
振り向くと、榊原は深い溜息を吐き、心ここにあらずといった雰囲気で、面倒臭そうに口を開いた。
「石川警部は最後まで駒田の命令だと言い張った。駒田を道連れにするつもりなんだ。今、ごたごたやっているよ。」
「駒田も気の毒に。」
「ああ、そういうこった。」
「結局DVDは闇から闇ってわけだ。」
「ああ、組事務所を急襲して、金庫のマザーテープも回収した。ワシはそれでもいいと思っている。上村組長も弟も逮捕出来たんだ。まして坂本が死を賭して守ろうとした磯田副署長の秘密だ。あいつの死を無
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